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2.焔心 【幕間】由利子のブログより

20XX年6月21日(金)

ブログ『ユリ根の入った茶碗蒸し』 

再び近況報告 〔更新;20XX年6月21日02:10〕

 こんばんは。ご無沙汰してます。ゆりね子です。

 しばらく更新が滞ってしまい、皆様に尋常ならざるご心配をおかけしました。沢山の心配コメントをどうもありがとうございます。一人ひとりにお返事をしたいところですが、数が多くてちょっと無理そうなので、この場を借りて、お礼とお詫びを申し上げます。

 近況をご報告いたします。

 実は、リストラにあいまして前の会社を辞めざるを得なくなりました。幸い、新しい仕事が期間限定ではありますが見つかりまして、今、そこでお仕事をさせていただいております。詳しいことはまだご報告できませんし、更新も今までのように頻繁に出来ないと思います。でも、落ち着き次第、ご報告を兼ねて記事が書けるのではないかと思います。時々は様子を見に来ていただけると嬉しいです。

 今日は少し余裕があるし面白いことがあったので、ひさしぶりに更新します。

 今日(20日)の夜、私の新しい職場の皆さんと飲みに行きました。あ、一部の方はお食事でしたが(笑)。関係者の一人が一時的にアメリカに帰国するので、そのお見送り会です。

 参加者(勝手に私ゆりね子が仮名をつけました)は、私の新ボスである『先生』(なんと、イギリス人だよ)、彼の秘書のSさん、帰国するジェイ君、オフィスのリーダー格、二月君。そして少し遅れて、うちのオフィスと協力関係にある会社のJK君と、なぜか彼の上司のSKさん(二人とも苗字がカ行なので名前と苗字のイニシャルね)。

 まず、6時に予約していた居酒屋に私とSさんが、次に来客で少し送れて先生とジェイ君。お酒の飲めない先生はウーロン茶、他は生ビールで乾杯。因みに先生は下戸なのでいつも送迎係ですわん。

 で、1時間ほど送れてJK君登場。ところが、横を見たら上司のSKさんも一緒でみんなびっくり。JK君、実は仕事で来れるか来れないかわからない状態だったのだけど、SKさんが一緒に飲みたいって言うんでつれてきたとか。なんか嫌な予感がしたけど、案の定、JK君は上司に捕まったまま色々言われてた。SKさん、良い方なんだけど、ちょっと理屈っぽいみたい。お酒もあまり強くないみたいで、生ビールジョッキ1杯でもう赤くなっちゃった。
 でね、JK君がかわいそうだったんで、私、SKさんの横に行って話題を変えようとしたんだけど、逆につかまっちゃった。
「ゆりね子さん、わしゃあね、こいつはやれる奴じゃって思ぉちょるんじゃ」
普段は綺麗な標準語を話されているSKさんは、酔っ払ったせいか私に向かっていきなり方言全開で言った。む、九州の言葉じゃないし、関東から来た人にしては、なんとなくH県風。聞いてみたら隣のY県出身だって。
「もう、SKさん、ゆりね子さんにそんなこと言っちゃ迷惑ですってば」
JK君は困って言った。
「まあ、聞けぇや」
SKさんは、まじめな顔でJK君を見て言った。
「お前の経歴を読ませてもろうたが、優男でしかも遅咲きじゃが誰よりよぉとがんばっとる。前任のTさんが目をかけとったんがようわかるほじゃ。じゃがな、いかんせん、自信がなさ過ぎる。気迫が足りんしすぐに精神面の弱さが表に出るやろう?」
「確かにそうやねえ・・・」
納得しつつ、私も釣られて方言になった。
「ゆりね子さんもそう思うやろ。じゃけんわしゃあ、こいつにもっと強くなって欲しいんじゃぁね」
「大丈夫ですよ。SKさんが鍛えてくれたらきっと強くなりますって。ところでSKさん、聞きたかったとですけど、何で先生に対していつもキツいことを言われるとですか?」
SKさんはうちの先生に対していつもいやみを言われるので、私はちょっと気になってたのよね。
「ああ、あんたんとこの先生は、外国人なのに、わしら日本人のために親身になってよおやってくれとるし、いい人やと思う。じゃが、わしゃあ日本男児じゃけえの、いい加減西洋人の干渉から脱却せんといけんと思うとるんじゃ。じゃけん、ついああいう物言いになってのう。悪いとは思うちょるんじゃが」
SKさんは、少し照れくさそうに言った。そんな中、二月君とジェイ君が自分の席から立ち上がって、日本酒の徳利とお猪口を持って来た。仲良く肩を組んでいる。
「何や、そこで何深刻な話しとるんでっか?」
「せっかくの飲み会だもんで、楽しく飲みゃーせんか?」
因みに二月君は大阪弁、ジェイ君はアメリカ人だけど名古屋弁だぞ。
「おー、そうじゃったのう。ほいじゃ飲み直しじゃ。わしが注いじゃるけぇ徳利をくれぇや」
SKさんはいきなり機嫌よくなって、二月君にお酒を注いだ。なんか、4方言入り混じってすごいことになりそうだ。
「そういえば先生は? ・・・あーっ、テーブルに突っ伏して寝とおやん!!」
「ああ、おれがウーロン茶に日本酒こっそり混ぜてやったら気づかずに飲んだんだわー。今、Sが水をもらいに行ったがね」
「もお、だめやんか。先生が酔っ払ったら帰りの足、どーすっとぉ?」
「心配せんでも、あんくらいやったら1時間もすりゃあ目ぇ覚ましまっせ。あと2次会で酔いを醒ませば問題ないですわ」
二月君がこともなさげ言った。
「実はおれらもよおやるんですわ。この先生がまた学習せずにいつも引っかかってから、大体宴会の後半は寝とるんですわ、この人」
 なんか、先生がちょっとかわいそうになってきた。それにしても先生、下戸にもほどがあるぞ。

 そして二次会に突入。完全に酔っ払ったSKさんをタクシーで送ったので、JK君が少し遅れてきた。
 先生は二月君の言うとおり、清算時には目を覚まして首をかしげながらお勘定を払っていた。ま、しっかりと領収書をもらってたけど(ただし、Sさんに言われたからだけど)。

 JK君が来た時、すでにパーティーは大盛り上がり。先生の奢りと聞いて安心したシブチンの二月君、主役のジェイ君を差し置いて一番のり。しかも、いきなりアカペラで『大阪うまいもんのうた』って、初っ端からいきなりネタ歌かよ(笑)。それに触発されたか、ジェイ君が手をあげた。
「『名古屋はええて、やっとかめ』いきま~す」
って、いきなりアニメ調の前奏が。つぼイノリオじゃん。中間のナレーションも完璧。どれだけ歌いこんでるんだと。その途中でJK君到着。後半は、サビの部分を二月君とJK君を加えて大合唱。Sさんは笑顔で手拍子、私は合いの手を入れてあげた。先生は・・・と思って様子を見ると、早くも置いてけぼりを食ったような顔でぼ~っとしている。こういうネタ歌が今一理解できないらしい。それを見越したSさんは、にっこり笑いながら次の歌を入れて、はい、とマイクをJK君に。さすが秘書の鑑、軌道修正ね。果たして、かかったのは『日本全国酒飲み音頭』。って、軌道修正されていないし。当然件のほろ酔い3人組は喜んでたまた大合唱。げんなりした表情の先生がとうとう懇願した。
「すみません、もう少し、しっとりとした歌、お願いします。ゆりね子さん、どうですか」
「了解。ちょっと待ってね」
適当に検索したら、うりちゃんの曲があったのでそれに決めた。『ノスタルジア』・・・。
「いい歌ですねえ・・・」
先生は気に入ったらしい。その後、Sさんがモモエちゃんの『秋桜』を、綺麗な声でしっとりと歌い、JK君がプリンスの『パープルレイン』を歌った(上手いけど似合いすぎでした)。でも、先生は一向に歌う気配がない。ひょんなことから先生が、アカペラで唱歌を歌ってたのを聞いたことがあるけど、上手かったのにな。それで、直接聞いてみた。
「先生、歌わないんですか?」
「だって、僕の好きなバンドの歌がないんだもん」
先生は少しお冠。
「彼らは今、日本では有名じゃないんですから、しかたありませんわ」
Sさんが、慰めるように言った。
「じゃっ、キタジマサブローでも歌おっかな・・・」
「却下しますわ」
先生の意思表示をSさんは速攻で取り下げた。でも、私は驚いて聞いちゃったよ。
「サブちゃん? マジで?」
「日本人ならキタジマサブローです。雄大で叙情的で日本のタマシイです。アルバム全部持ってます」
べた褒めでした。でも、先生の演歌、ちょっと聞きたかったかも(笑)。
 その後、いい塩梅に酔っ払ったJK君が歌ったケロロマーチから大アニメ大会になって、また先生が置いてけぼりに。Sさんが、流石にまずいと思ったのか、急いで探した曲を入れた。巌窟王っていうアニメから『We were lovers』という曲。アニメつながりだけど、さっき言ってた先生が好きなバンドの人が作ったんだって。ショパンの曲を基にしているそうで、まあ、それは聴いたらすぐにわかるけど、すごくドラマティックで綺麗な歌だった。先生がまたいい声してるし。先生もゲンキンなもんで、それを歌うと満足したみたいで、あとは割りと機嫌よく手拍子したりしてた。さすが秘書のSさん。ややこしい先生の扱いに長けているわ~(笑)。その後もアニメと洋楽大会が続いたけど、終了時間が近づいてきた。
 すると、Sさんが頃合を見計らって曲を入れ、先生とジェイ君にマイクを渡した。マイクを持って一瞬何かと思った二人だったけど、曲名がわかると納得し、顔を見合わせて笑った。二人が気に入っている曲のようだ。エクストリームの『モア・ザン・ワーズ』。ギターの前奏の後、先生が歌い始めた。やはり上手い。続いてジェイ君が低音部を歌い始めた。デュエットだ。二人ともさすがというか息がぴったりで綺麗にハモッてて、はたから見ててちょっとヤケちゃったわよ。この曲自体がすごくいい曲だし、すごく得した気分。二人が歌い終わって拍手喝采ついでに冷やかしたりしていたら、ちょうどあと5分という電話が入った。
「じゃあ、トリはやっぱりこれですよね!」
JK君が意気揚々と入れた曲・・・。宇宙戦艦ヤマトかよ! って、あんた、歳、いくつだよ(笑)。あ、そういえば最近実写映画も作られたっけ。見てないけど。でも、やっぱ盛り上がりますわ~、この歌。ダダンダダン! と景気良く、曲がスパッと終わったと同時に、ジェイ君がびしっと敬礼をして言った。
「不肖ジェイ、所用のため米国に一時帰国いたしますが、必ずここへ帰って来て再び戦線復帰いたします。共にこの地を守りましょう!」
みんなノッて「おーーーーっ!」と、鬨(とき)の声を上げた。ノッているけど、みんな本心だ。
 最近ニュースになったからご存知の方も多いと思うけど、今、この地で大変なことが起こっているから・・・。以前、M県で起こったことを思い起こしても、国がどこまで当てになるかわからない。拡散を防ぐために、ひとりひとりが気をつけて封じ込めないとね。
 名残惜しいけど、今回は二次会でお開き。ジェイ君は明日午前中に飛行機に乗るから、早めに休まないといけないし、第一まだ明日は金曜で平日だ。私たちはカラオケ屋の前で別れ、それぞれに帰路についた。

 っとまあ、こんな感じでした。いつもの宴会ネタとはちょっと違った内容でしょ。こんどの職場はみんなユニークな人ばかりで、すごく面白いです。そういうことで、私は意外と元気でやってますから、安心してね。ではまた!

 

「よっし、誤字脱字もないようだし、大丈夫そうやね」
由利子はアップした記事を読み返しながら言った。
「それにしても・・・」と言いながら、由利子は伸びをしてそのまま横のベッドにごろんと横になった。すると目の前に猫のにゃにゃ子と春雨の顔があった。寝ていた二匹が驚いて顔を上げたのだ。
「あ~、ごめんごめん、起こしちゃったねえ。・・・あのね、にゃにゃたん、はるたん、今日アレクとジュリーがね、デュエットしてさ~、すごく良かったんだよ~。あれだけ息がぴったり合っているとさ、ちょっとくらいは妬けるし、同性ってのもまだ慣れないけどさ、そういうのもアリだって認めざるを得ないよねえ・・・。私、あの二人、好きだな」
そう言った後、少し照れくさくなったのか、由利子はベッドに寝たままクスクス笑いながら2・3度ゴロゴロしていたが、不意に起き上がった。
「それにつけても、あのお子ちゃま刑事ってば、ホントにバカなんだから! 放置すれば良かった!」
由利子は急に何かを思い出したように言ったが、頭をぶんと振るとすぐに吹っ切るように言った。
「さ、風呂に入って寝よっと。歌いすぎと飲みすぎとあのバカのせいで疲れたわ!」
由利子はすぐさまベッドから立ち上がると猫たちの頭をなで、さっさと入浴の準備をし、タオルを振り回しながら浴室へ向かった。

 (「第3部 第2章 焔心」 終わり)

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