エボラ出血熱のこと(バイオテロについても含む)
エボラウイルスは、感染力は強いですが、感染者の体液に直接触れたあと、ウイルスのついた手などで傷口や眼や鼻などの粘膜に触って感染する接触感染がほとんどです。空気感染はしません。また、呼吸器疾患ではないため症状に咳やくしゃみがほとんどないので(他原因でのくしゃみや咳はあり得るので注意は必要)、飛沫感染も少ないでしょう。また、潜伏期間では感染力は低いということです。ちなみに、放血を「炸裂」と表現することもありますが、爆発はしませんから。
もし日本に上陸したとしても、医療も公衆衛生も整っていますので、パニック映画のように広がることはありません。冷静な対処をしてください。そして、常日頃から頻繁に手を洗う習慣をつけてください。エボラウイルスは石鹸での手洗いでも死滅します。
私は医者ではないし、感染症の専門家ではない。知識も若干古いかもしれない。しかし、この件には触れておかないといけないと思う。しばしお目汚しを御勘弁願いたい。
この件は、『エボラ出血熱とデング熱』というエントリーで触れるつもりだったが、気になる記事を見たのでテーマを変えてアップすることにした。
しかし、これを書いている間にも、刻々と状況が変わっている。そのため書いている内容にも整合性がないところがあるかもしれないが、ご容赦願いたい。この件については、状況が落ち着いて(悪化もあり得ますが)から加筆修正します。
**************
このエントリーは、第1部でエボラウイルスについて、第2部で、エボラウイルスが人工的に開発された生物兵器であるという説に対する反証という、2部構成になっております。
第1部 現在のエボラウイルス禍について
エボラウイルス感染症は1976年に中央アフリカのスーダンと旧ザイール(現在のコンゴ民主主義共和国)で、ほぼ同時に発生した。遺伝子を調べた結果、ほぼ同時に発生したとはいえ、スーダンからザイールへ飛び火したのではなく、全く別のウイルスが偶然同時に発生したものだった。その約10年後の1995年に再びザイールで大発生が起き、たまたま映画「アウトブレイク」の上映と重なり、世界中の注目を集めた。その後もエボラウイルスはアフリカで数回散発的な大流行を繰り返した。
エボラウイルスはフィロウイルス科に属する。フィロウイルスのフィロは紐という意味で、ウイルスには珍しい紐状の形をしているために命名された。この科にはマールブルグがある。1968年にドイツのマールブルグ市の研究所でアフリカ産のミドリザルから感染が広がった。フィロウイルスはその致死率の高さや不吉な形状から宇宙から来たアンドロメダ病原体ではないかと恐れられた。
現在、西アフリカでエボラウイルスは拡大し続けており、予断の許されない状態になっている。正直、WHOも手の打ちようのない状態になりつつある。早期のワクチン・抗ウイルス薬の完成が望まれるところだが、今のところ半年以上かかりそうなのが現状である。
しかし、アフリカとは違い、日本などの先進国の医療体制は整っており、万一上陸したとしても、一気に広がることはないだろう。この場合、ウイルスよりもパニックの方が深刻な事態を引き起こす。各人の冷静な行動が望まれる。現在、アメリカ合衆国とスペインにウイルスが上陸している。これ以上広がらないよう、各国の水際対策の強化と感染地から帰った人々の慎重な行動が必要である。
また、我が国において住民の反対にあって現在BSL-3でしか使用していない研究室をBSL-4で稼働できるよう早急に対処するべきだと思う。(エボラウイルス流行で稼働できるようになった模様)
エボラウイルスでの死者は今のところ、インフルエンザなどの死者数に比べると少ない。たとえば日本だけでも大流行した時の死者数は1万人を超える。地図で見ても、現在流行しているのは広大なアフリカのホンの一部だ。だが、恐いのはその勢いだ。去年の12月にたったひとりだったのが、現在1万人を超える(潜在数を含めればもっと増えるだろう)感染者を出している。しかも、スペインやアメリカ合衆国にまで飛び火しているのである。感染者が増えれば増えるほど封じ込めが困難になってくる。しかも、従来より感染力が強い上に致死率も非常に高いのである(エボラ・ザイールの場合致死率は90%近い。今回は少なくとも発症者の半数は亡くなっている)。
感染を増やした最大の原因は、アフリカの風習にあった。これは、過去のエボラやラッサ熱の流行で何度も問題になったことだが、葬儀の際に、皆で死者を洗い清めるという風習である。感染力の強いウイルスであれば、この時容赦なく感染をする。
1976年に初めてエボラウイルスが猛威を振るった時も、まずこれで感染が広がり、次に、病院や教会の治療院での医療器具(特に注射針)の使い回し等、貧困とそれによる不衛生な環境故に病院が感染を広げるという皮肉な結果となった。おそらく今回も初期発生時はこのような状態だったのであろう。
疫病が発生し、感染が広がった場合、一番有効なのは感染者を完全隔離し(必要であれば集落ごと)、ウイルスの移動を止めることだが、今のように交通機関が発達していると現実的に考えて、それは不可能だ。
しかし、それにしても、ガードが甘すぎるのではないか。
10月23日、エボラウイルスに感染した医師が、帰国後ニューヨーク市内を歩き回っていたことが判明した。医療関係であれプライベートであれ、感染者に接した人は3週間は行動を自重し、出来るだけ公共機関の利用を避けるように心がけるべきではないのか。防護服を信用し過ぎてはいないだろうか。(これを受け、現在は接触者の強制隔離が実行されているようだが)(非人道的ということで自宅待機に緩和されたようです。まあ、それでもうろつくような人は強制隔離すべきだと思うけどな)
では、今までの突発的流行と違って、ここまで感染が拡大したのは何故か。
今回爆発的に感染が広がったのは、人口が密集する都市部で感染が広がったからである。金八先生ではないが、バラバラに散らばったみかんなら1個カビても被害はそれ1個で済むし、こたつの上に置かれた籠のみかんなら被害はその数個で終わる。しかし、みかん箱の1個がカビた場合、すぐに他のみかんもカビてしまい、放置すればあっというまに箱全部がやられてしまう。もし、そのみかん箱のみかんを誰かが触って、ほかの箱のみかんに触れば、そこでもどんどんみかんがカビにやられてしまうだろう(ただし、カビが胞子を飛散させないと仮定して)。
HIV(エイズウイルス)が数年で地球規模まで広がったのも、感染が都市部を中心に広がったからだ。特に、HIVの場合、感染してから発症するまでの期間が長いため、長い間誰にも知られず水面下でどんどん感染を広げていった。現在、世界のHIV感染者は3千万人を超えている(ちなみに日本国内の感染者は2万人を突破。情けないことに、先進国でHIV感染が増加しているのは日本だけだという)。
エボラウイルスは平均潜伏期間7日(最長3週間)で、発症後の症状も激烈なので、HIVのように水面下で世界中に感染が広がることはない。しかし、その致死率の高さ(HIVは致死率ほぼ100%だが、最近は感染しても薬で発症から死に至るまでの期間がかなり伸びている。身に覚えのある人は早めに検査を受けよう)
1976年に出現して以来、エボラウイルスは散発的な大流行を起しながらも、なんとか制圧できていた。しかし、今回はそれは敵わず、西アフリカ3カ国に広がった挙句、アメリカやヨーロッパにまで上陸している(インドで邦人感染隔離のニュースが流れたが、今のところ正確な情報はない)(←そういえばこれどうなったんだろう)。感染者が増えれば当然感染が加速し、制御が困難になってくる。これが中国やインドなどの公衆衛生の未熟な人口密集地に飛び火した場合、最悪のシナリオになるだろう。
現在、エボラウイルスはISIS(イスラム国)と共に深刻な脅威となっている。特に、これ以上拡散が続けば地球規模の脅威になりかねないエボラウイルスは、何としても封じ込めなくてはならない。
かつて、天然痘撲滅運動で人類が一つになって自然界での痘瘡ウイルスを一掃した。今こそ、再び宗教主義主張そして国境を越えて全人類が協力し合いこの脅威に立ち向かわねばならない。
第2部 エボラウイルスと生物兵器
さて、エボラウイルスと生物兵器の関連についてだが、この2つがあげられる。
- エボラウイルスは、生物兵器として人為的に作られたものである。
- エボラウイルスは人工物ではないが、バイオ(生物)テロに利用される可能性はある。
前者については、陰謀論で有名な某氏等がデング熱なども絡めて吹聴して回っており、一部の人が信じ込んで拡散しているようだが、リアリティのない与太話だ。
しかし、後者についてだが、ウイルスが猛威を振るっている現在、これは可能性がないとは言い切れない。もともとエボラウイルスは、CDCによる生物兵器の危険度分類では天然痘やペストなどと共に最も危険度の高いカテゴリーAに分類されている。
ここで注意しておきたいことは、私はこの事を恐怖をあおるために書くのではない。使われる可能性はあるものの、あくまでも可能性であって、それはかなり低い確率だと思っている。また、エボラウイルスが直ちに世界中に広がって日本にも上陸し、アフリカのような感染爆発を起こすわけではない。感染力はかなり強いウイルスではあるが、今のところ感染発症者の体液に直接触れる接触感染が主である(症状に咳やくしゃみがないためインフルエンザのように飛沫が飛び交うことはないが、他の原因で咳やくしゃみが出る可能性があるため注意は必要)。
以下、それらについて詳しく書いていこう。
ウイルスは扱いがとても難しい。増殖には生きた細胞が必要だし、寄生していた細胞から離れると長く生存が出来ない。また、既存のウイルスや細菌などには強力な病原性を持つものが沢山あるし、制御も困難なシロモノなのだ。しかも、生物兵器はブーメランとして自分等に帰ってくる可能性もある。
生物兵器に関しては、第二次世界大戦中、日本の731部隊が大陸で人体実験を伴う研究(一部実験を兼ねて実行)をしていたことが有名だが、大戦後各国で大々的に研究された。その後、1975年に生物兵器禁止条約が発行されている(ただし、調印したものの旧ソ連のように研究開発を続けてきた国も多い。詳しくは下記リンク参照のこと)。そういう歴史もあるし、貧者の核兵器と言われるように、北朝鮮のようにいまだ兵器として病原体を使う可能性のある国が存在することは事実だ。
生物兵器の場合、使用方法にいくつかの種類があげられる。まず、一般的なものとして病原体そのものを使う場合が考えられる。病原体の種類や性質によって、爆弾にしたり、エアロゾルにして空気中にばら撒いたり感染した生物を拡散したりする。炭疽菌のように芽胞を作り高温にも耐えうるものは、爆弾に仕込むことが出来る(炭疽菌についてはここ に詳しく書いているので、興味のある方はお読みください)。
もう一つの方法は、生物の持つ毒素を使うものだ。代表は最近では美容整形にも使われるボツリヌス毒素で、強いものは青酸カリの100万倍ともいわれる最強の毒素である。この場合、毒素を仕込んだ食べ物をばら撒く方法が効果的だろう。これもまた潜伏期間があり、すぐに効果が表れないが、数時間から数十時間後に多くの人が毒素に当たってバタバタと倒れ、大パニックになる。
それから、農業や畜産を狙ったアグリ兵器と言うものもある。これは人ではなく農産物や家畜に病原体や毒素を撒き、大打撃を与えるものだ。テロではないが、2010年の口蹄疫禍のことを考えてもわかるように、いったん疫病が広がった場合、農業や畜産のダメージは計り知れない。
しかし、実際に兵器として使うにしては、生物兵器は不完全だ。通常兵器と違い、感染後潜伏期間があるため効果はすぐに現れないし、どれだけの規模に効果があったかもはっきりとわからない。しかも、ヒト-ヒト感染する様な病原体の場合、下手すれば時間をかけて自分等にブーメランしてしまう。利点は、潜伏期間に、敵に気付かずに拡散させられることだが、そういう点ではテロに向いた兵器と言えるかもしれない。
だが、オウム真理教が最初生物テロを画策し実行もしたが、失敗続きで化学テロに切り替えたように、生き物故に生物兵器は扱いがとても難しいのだ。それを特定の人種や民族を減らすためや、特定の製薬会社の儲けのためなどに、わざわざ作り出すにはデメリットの方が多いのだ。たとえば、ベトナムを中心にアジアで猛威を振るったサーズは、中国人の台頭を怖れ、黄色人種滅亡のために作られたウイルス兵器という陰謀論があるが、そもそも人種間においてのDNAの違いはほとんどない。実際に白人の医師も感染し死亡している。(→カルロ・ウルバニ )
1976年に出現したエボラウイルスが、今頃になって西アフリカで猛威を振るっているのは、今までの感染爆発が貧しい国で起きており、小規模感染爆発を繰り返したものの、幸運にもなんとか制圧出来ていたからだ。それ故に、ノンフィクションや映画などでセンセーショナルに語られ、現実にも脅威であったにも関わらず、ワクチンが現在まで完成しなかった。理由は単純だ。製薬会社の儲けにならないからである。デング熱も貧しい国で感染が広がっているにも関わらす、利益を得にくいということで顧みられない感染症だが、エボラも似たようなことで、ワクチンやウイルス開発が遅れていたのだ。結果、今の惨状である。
以上のことから、エボラウイルスは生物兵器として作られたのではなく、自然発生したと考えた方がしっくりくるだろう。
それでは、何故20世紀後半になってから、新しい感染症が次々と現れたのか。それは、人口増加で未開地が開発されて、今までジャングルの奥で宿主と共にひっそりと暮らしていたウイルスが人間界に出てきてしまったからだ。それらは新興感染症(Emerging Infectious Disease エマージング・インテクシャス・ディシーズ)と呼ばれたが、そういう訳で、いきなり最近出来た、あるいは作られたものではないのだ。
これに関連して、再新興感染症と呼ばれるものもある。
それらは、制圧されていたものが、再び勢力を取り戻してきた感染症をいう。結核やマラリアなどがあるが、デング熱もこれにあたる。これらは人口増加に加えて耐性菌が現れたことも重要な原因である。
耐性菌に関しても、遺伝子操作の細菌兵器だという説がある。そういうものがないとは言い切れないが、多くは抗生物質の乱用によるものである。
現在、アメリカ合衆国でエボラ患者が発見されたことで、彼に接触した人たちが厳重な監視体制におかれている。発症した男性は残念ながら亡くなられたようだ。(10月10日頃記述)
勿論、彼は米国内で感染したのではなく、西アフリカに渡航して感染したのだが、とはいえ、エボラウイルスはアメリカ合衆国に上陸したと考えられる。また、その患者から看護師が2次感染していることが公表され、いまだ楽観はできない状態だ。もし、エボラウイルスがアメリカ製であれば、思い切りブーメランしてきたことになる。
アフリカでエボラウイルスに感染したアメリカ人医師が自国に搬送され、抗ウイルス薬を投与され生還したことが、エボラウイルス生物兵器説の証拠とする意見もあるが、このZMAPPという抗エボラウイルス薬はまだサルでの実験段階であった未承認薬だった。非常時であるために、実験的に使用されたものであり、同じく投与された他の6人のうち2名は亡くなっている。いずれにしても、人に対する実験データが少なすぎる上に、アフリカでの感染に使用できるほどの在庫がないらしい。ZMAPPの量産と共にフジフィルムの抗ウイルス薬にも期待したいが、いずれも今すぐとはいかないようだ。
幸いにも今のところエボラウイルスは一部の種類を除いて空気感染する性質はないため(空気感染が認められたエボラ・レストンはヒトには発症しないタイプだった)、公衆衛生や医療体制のしっかりとした国ではそう簡単に広がらない。しかし、可能性はかなり小さいが、もし空気感染するように変化した場合、ワクチンなどの積極的防御の方法がない今、手の打ちようがなくなるだろう。
因みに空気感染は飛沫核感染と言い、飛沫(感染者のくしゃみなどの)から水分が無くなってもウイルスが死なずに漂い、1m以上離れても感染力をもった場合で、麻疹(はしか)や結核などがこれに当たる。
飛沫感染はインフルエンザのように飛沫を吸い込んで感染することで、空気感染ほどではないにしろ、こうなるとかなり厄介になるが、今、エボラはこの疑いがもたれている。防護服を着用していたにも関わらず看護師が感染してしまったからなのだが、どこかで油断やミスがあり、患者の体液に触れて感染した可能性が高い。ただ、こうも急激に感染が広がりヒトーヒト感染を繰り返した場合、性質が変化する可能性は否定できない。
一方、スペインの方はもっと深刻だ。アフリカで感染発症した神父(ZMAPPを投与されたが亡くなった2人のうちの1人)の看護をしていた看護師の女性が感染、発症し死亡した。しかも、身内などの接触者6人が感染発症している(10月9日現在)。何故深刻かというと、国内感染であるうえに、さらに感染を広げているということだ。だから、もし、アメリカでも国内感染した人から感染が広がれば、深刻度を増していく。
エボラウイルスがバイオテロに使われる可能性について、「猛威を振るっている現在」と注釈をつけたのは、そういう時だからウイルスを入手しやすいということだ。
1995年2度目のエボラウイルス大発生終息直後、オウム真理教がエボラウイルスを得ようと画策してアフリカに人を送ったが、徒労に終わった。エボラウイルスの宿主はまだわかっておらず(ある種のオオコウモリだろうというところまではわかっているようだが)、発生終息後ではウイルスの入手は不可能だったからだ(しかし、もしウイルスを入手できたとして、どうやって日本に持って帰るつもりだったかを考えると、ぞっとするが)。
そういうことから、ウイルスが猛威を振るっている現在、たとえば、ISIS(イスラム国)あるいはその信奉者などが、自らを感染させる、あるいは、ウイルスのついた衣類や汚物などをばら撒くという可能性はゼロではない。爆弾をウイルスに置き換えたようなもので、自爆テロを躊躇しない者がいるからだ。
そのような行為は、エボラウイルスの拡散を速めるだけで、結局自分等に跳ね返ってくる愚かな所業である。
疫病のように人類共通の脅威には、主義主張を超えて人類が一致団結して封じ込めるべきである。
【参考1】
○エボラ出血熱は現在エボラウイルス疾患(EVD)という名称が正しいようだ。
○ウイルスと細菌(バクテリア)との違い
混同されやすいウイルスと細菌だが、実はまったく違う生物である。以下、その違いを挙げる。
・増殖
細菌もウイルスも寄生生物であり、細菌は宿主から栄養を横取りして生きるが、自力で分裂できる。
しかし、ウイルスはタンパク質の殻と遺伝子しか持っていないため、自力では複製すら作れず、他の細胞を使うため、生きたものにしか取り付けない。遺伝子(DNA or RNA)を宿主の細胞に注入し、そこで増殖をする。例えれば、工場を乗っ取って勝手に自分の設計図で物を作るようなものだ。細胞いっぱいに増殖したウイルスは細胞膜を破壊し飛び出すのだが、その一つ一つのウイルス粒子がほかの細胞に取りつき……。あなたがインフルエンザに罹った時体内ではこういうことが起きているのですよ。怖いね。
ウイルスは半分物質のような生物だと言える。
・大きさ
細菌は1ミクロン(マイクロメートル。1μmは1mmの1000分の1)前後のものが多いが、ウイルスはそれよりもさらに小さく20~300ナノメートル(1nmは1㎜の100万分の1、1μmの1000分の1)ほど。なので、バクテリオファージのように、細菌に取りつくウイルスもある。
・治療法
細菌には抗生物質が有効だが、ウイルスには効かない。抗ウイルス薬(タミフルやリバビリン等)の効くウイルスもあるが、基本ウイルスに感染して発症した場合、対症療法しかない。ワクチンは免疫をつけるためのものなので、ワクチンがあるウイルスでも感染してしまってからでは投与しても効かない。ワクチンはウイルスだけではなく細菌にもあるが、何れにしても種類は限られる。
【参考2】
バイオテロについてはこちらにも詳しく書いています。対談形式なので読みやすいと思います。
生物兵器とバイオテロ(前篇)
https://kuroki-rin.cocolog-nifty.com/heaven_or_hell/2017/05/post-a369.html生物兵器とバイオテロ(後編)
https://kuroki-rin.cocolog-nifty.com/heaven_or_hell/2017/05/post-763d.html
HIVについて『朝焼色の悪魔』よりギルフォード教授の講義を引用
「エマージングウイルス、すなわち新興ウイルスといいますが、最近になって出来た新種ではありません。それらは昔からあったものが、ヒトの進出により人間界に出現してしまったのです。しかし、もともと存在していた微生物が変異してヒトに激しい病原性を持つようになったものもあります。エイズもそのひとつです。
エイズに関しては、もともとサル由来のウイルスだったのものが、ヒトに病原性を持つものに変異したものです。しかし、普通ならば、それはアフリカの風土病として、特に脚光も浴びずに細々と人から人へ渡り歩きながら、静かに暮らしていくはずでした。それが、現代の交通機関の発達とアフリカの急速な近代化のために、アフリカから飛び出し、ものすごい勢いで世界中に広がりました。梅毒の時とは比べものにならないスピードです。それは、エイズの潜伏期間がとても長いので、感染に気づくまでに病気を広げてしまうことも関係しています。
アメリカで1981年に初めてエイズ患者が見つかってから、20世紀末までのわずか20年ほどの間に、世界中で少なくとも3400万人が感染し、1200万人が亡くなっています。最初にエイズウイルスが確認されたのが、1983年、その後、医療関係者たちはこの厄介な感染症を制圧しようと必死で戦いましたが、HIVは非常に変異しやすいRNAウイルス、しかも、レトロウイルスのためその戦いは未だに続いています。ただし、その努力の結果、感染者の存命期間をかなり延ばすことが出来るようになっています。しかし、完治することはありませんから、一生薬を飲んでいかねばなりません。貧しい国では治療薬の入手が難しく、エイズは未だ、感染すれば死を免れない恐ろしい病気です」
ここで、またギルフォードは講義室を見回した。
「気をつけて欲しいのは、感染症は生物が生きる残るためのせめぎ合い、つまり、弱肉強食の一環であって、決して神様の鉄槌ではないということです。善人も悪人も、道徳者であれ不道徳者であれ、病原体にさらされた場合感染するリスクは平等です。善人が死に悪人が生き残ることも、その逆もあります。
しかし、病気が流行ると、必ず天の怒りだとか勝手に解釈する人たちが出てきます。エイズがそうでした。
アメリカでは、最初、同性愛患者に多く見られたため、それを神罰とみなした当時の大統領の判断で国の対策が遅れ、エイズ患者を大量に発生させてしまいました。皆さんには信じられないことでしょうけれども、これは事実です。彼はキリスト教原理主義者、いわゆるキリスト教ファンダメンダリストの支持によって大統領の座に就き、彼自身も熱心な反同性愛主義者でした。彼にとって、同性愛という罪深い行為が神によって罰せられることは当然の摂理だったのです。日本のように昔から同性愛に寛容だった国では考えられないことでしょう。
さらに悪いことに、ファンダメンダリストである彼の感染症についての知識は、非常にお粗末なもので…言ってしまえば完全に間違っていました。エイズを麻疹(ましん)つまり、はしかのようなもの…かかっても自然治癒する何の心配もないものだと思ってたらしいのです。もちろん、それも間違いで麻疹はワクチンが開発されるまでは、特に子供にとって怖いウイルスでした。今でも発展途上国ではワクチンが行き渡らずに、高い死亡率を誇っている病気です。
麻疹を例にあげたように、アフリカ等の医療や公衆衛生の立ち遅れた国、いや、立ち遅れざるを得ない状況の国では、耐性菌の問題を含め、未だに感染症が深刻な問題になっています。これも重要なことですので、日を改めてまた詳しくお話しましょう。
さて、レーガンはエイズに対しての強固な対策を立てるべき立場にありました。それができるのは彼だけでした。しかし、彼は、彼の間違った認識からそれを放置しました。それが今の結果です。もちろんエイズの流行はアメリカだけの責任ではありませんが、このことから、正しい知識を持つことが如何に大事かということがわかりましたね?」
○「バイオテロ概要」
古い記事ですが、概要はあまり変わってないと思います。
| 固定リンク
「感染症の話」カテゴリの記事
- 生物兵器とバイオテロ(後編)(2017.05.07)
- 生物兵器とバイオテロ(前編)(2017.05.04)
- 「チフスのメアリー」のこと(2016.03.28)
「バイオテロリズム(ケミカルテロを含む)」カテゴリの記事
- 生物兵器とバイオテロ(後編)(2017.05.07)
- 生物兵器とバイオテロ(前編)(2017.05.04)
- 妹。(地下鉄サリンテロ事件)(2024.03.20)
- エボラ出血熱のこと(バイオテロについても含む)(2014.10.27)
- 「『米国炭疽菌テロ事件』、犯人の自殺で幕」について考える(2008.08.10)
コメント