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2007年9月15日 (土)

「死にきれない者」~マスメディアとつきあう為の、12の方法序説」より転載

 今回の安倍総理退陣劇について書かれた、すばらしい文を紹介する。なお、この記事の転載については、元ブログ「マスメディアとつきあう為の、12の方法序説」の竹山さんの許可を頂いております。(下のタイトルをクリックすると元記事に飛びます)

死にきれない者
       2007.09.15 Saturday

 かつて国民の人気を一身に集めた者が、最後の念頭にうかべていたのは、国民の姿、国民の願いなどではなかったこと。

 国民の「英雄」にまつりあげられ、彼自身も、その人気を国民の幸福のために活用しているのだと信じこんでいた政治家が、最後の瞬間に、戦没者やその遺族たちの、うずまいて沈められている心理とは、はるかにかけはなれた「心理」にたてこもっていたこと。

 彼一身の「残念」が、ほかの無数の知られざる「残念」を、忘れさせてしまっていること。

           武田泰淳『政治家の文章』p87、岩波新書
                      1960年6月17日第1刷

▼武田泰淳は『政治家の文章』(1960年)で、「政治家の死」について書いている。【】は原文傍点。

 いかなる「志」の綱も「名言」の網も、ついに捉ええない虚空の如き「政治」は、いつか、【呑みこもうとした人間】に復讐するのである。
 こっちが呑みこんだはずの「政治」の咽喉もとから、逆にあっけなく吐き出されること。それが、政治家の死である。
 それでも死なない人は、はじめから政治家として生きていなかったのである。「死にきれない者」のみが政治家でありつづけることを、果して一九六〇年代は許すであろうか。   ~p112

▼安倍首相は9月9日、シドニーで、海上自衛隊のインド洋上の給油活動を継続させるために「職を賭して」取り組むと言い、10日、招集された第168臨時国会の衆院本会議で、所信表明演説を行い、11日、官邸の連絡会議で、海自の活動を継続させる新法案を成立させるため「政府、与党は一致団結して難局に立ち向かってほしい」と言い、

12日午後2時

 緊急の記者会見で、「本日、総理の職を辞するべきと決意を致しました」と言った。そして13日、慶応病院に入院した。

 安倍首相の辞意表明は“政治的な死”だろうか。まさしくそうだろう。それとも彼は、「はじめから政治家として生きていなかった」のだろうか。
 翻って、慌ただしい自民党総裁選の段取りのなかで、「死にきれない者」の顔をしている政治家が、垣間見えるだろうか。

 
▼これまでのニッポンの政治史で似たような事はなかったか。ぼくは細川護煕を思い出し、その祖父の近衛文麿を思い、近衛の遺書について書いた武田泰淳の『政治家の文章』を思った。冒頭の文は、そのなかの一節である。

 与謝野官房長官は、塩崎官房長官とまったく安定感が違う、やはり人が変わると役職は変わるもんだなあ、とか、これだけ自民党議員がカネの問題で叩かれたのだから、そろそろ民主党議員も叩かれるだろう、とか、消費税の増税はどうなるんだろう、とか、そもそも参院選の感想をもうちょっと書かなきゃ、とか、あれこれのことが、読み返した武田泰淳の文章に吹っ飛ばされてしまった。

▼なぜ、安倍首相は突然辞めるのか。それはわからんちんである。折角改造した内閣の閣僚に、またまた次々と起こる金銭問題。「麻生・与謝野内閣」の台頭。

 安倍首相は、「残念」だったろう。しかし、その「残念」は、たった独りだけの、もしくは「安倍家」の「残念」だったのではないか。

 毎日新聞12日付夕刊(だったと思う)の社会面に、小さい記事が載っていた。

安倍首相辞意:「週刊現代」が「脱税疑惑」追及で取材

 突然辞意を表明した安倍首相については、「週刊現代」が首相自身の政治団体を利用した「脱税疑惑」を追及する取材を進めていた。
 同編集部によると、安倍首相は父晋太郎氏の死亡に伴い、相続した財産を政治団体に寄付。相続税を免れた疑いがあるという。晋太郎氏は91年5月に死亡し、遺産総額は25億円に上るとされていた。

 編集部は安倍首相サイドに質問状を送付し、

12日午後2時

が回答期限としており、15日発売号で掲載する予定だったという。

                   毎日新聞 2007年9月12日 15時00分

 もし、この醜聞が、辞任の語られざる理由だとしたら、彼は、総理大臣の社会的責任を最大に軽くした総理大臣として、永く記憶に留め置かれよう。しかし、ぼくの問題は此処にはない。

▼あれこれ報道を眺めていると、陳腐だけれども、「売家と唐様で書く三代目」、この川柳が思い浮かぶ。なかには、「売国と唐様で書く三代目」と揶揄する人もいるかも知れない。

 「世界の中のニッポン」はどうなっているか──この、「国益」に直結しているであろう視点が、マスメディアには少ない。

 安倍首相は、「ニッポンの中の私」すら見失ったようだ。

 12日の辞意表明で安倍首相は、参院選惨敗に触れて国民の信頼を失ったことに言及したが、当の国民に対しては、一言も呼びかけなかった。
 彼は、最後まで、国民という「他者」なき「独り語り」を続けた。だから、

 より強き者(註:ここではアメリカのこと)との「交渉」に、全力をつくすことは、一国の政治家の重要な任務の一つにちがいない。しかし、その努力によって、より弱き者たちの心理を忘れ去ることは、許さるべきではない。

                     『政治家の文章』p88

という文章を引用するのも、気が引ける。安倍首相の「心理」には、そもそも、忘れ去るべき「より弱き者たちの心理」そのものが含まれていなかったかのように見えるからだ。ましてや「世界の中のニッポン」など、眼中に無かっただろう。

▼「安倍自民党」とは、「安倍の自民党」という意味ではない。「安倍を担いだ自民党」という意味である。

 安倍を担いだ小泉前首相や自民党の責任は、問われないまま、そして、「安倍を担いだ自民党」を支持した人々の責任や内省にも殆ど触れられないまま、「勝ち馬」に群がる人たちの姿を追う報道が、氾濫している。ぼくの問題は、此処にある。

 今の今生きたい、ただただ人間らしく生きたい。どうして、ふつうに生きることが、おれたちに許されないのか。

 そう叫びながら、血と泥にまみれて幽鬼の如く痩せた彼らは、訴える相手も、掌をさしのべる相手もなしに、祖国も神も、「神の如き人」(註:昭和天皇)もアメリカも、あらゆる「法廷」をも信じたり感心したりしないまま、死滅したのではなかったか。

                    同 p86

 人間が痩せこけて死滅する原因は、戦争ばかりではない。という事実を、2007年のニッポンに生きるぼくは知っている。
 この、当たり前の事実を五感に刻み込んだ者のみが政治家でありつづけることを、果たして2000年代は許すであろうか。

小泉首相が国民の情念を映す鏡であったように、安倍首相もまた、熱しやすく冷めやすい国民の反射鏡だった。鏡は割れた。

 「三代目」を煽った人々は、割れた鏡に映る醜い姿は己であると認識することなく、目新しい鏡にすげ替える。その時。古い鏡を廃棄し、すげ替える、その時の姿を映し出す鏡は無い。

 繰り返される姿態を、「死にきれない者」だけが見つめている。

******* 転載終わり *******

 冒頭に引用された文を見て、最初今回の安倍退陣劇について書いてあるのかと思ったが、途中「戦没者」という言葉が出てきてあれ?と思ったら1960年に書かれたものであった。しかしまあ、なんとこの約50年前に書かれた文章が今のこの茶番劇にピッタリとシンクロすることかと、驚いてしまう。

 妖怪と異名を持った男の孫は、祭り上げられ利用し尽くされてボロボロ(病気が本物かどうかは置いといても対外的にはズタボロである)になって事実上失脚した。思えば参院選大敗後、総理の座を離れようとしなかったのは、己が前任者のケツ拭きのために祭られた神輿であったこの男の最後のあがきだったのかも知れない。しかし、その手は無駄に水を掻き空をつかんだだけの空しいものだった。彼の周囲には掴む藁すら浮かんでいなかった。

 そして今、彼の存在はすでに過去のものと葬られ、新たな総裁選ではほぼ次が決まったような状態である。サバンナより激しい弱肉強食の世界では、弱く傷ついたものの運命は食われる以外にない。そしてその屍は骨一片も残さず食い尽くされるだろう。

 JJ師範も言っていたが、日本人はもっと怒りをもって良いと思う。無関心または盲目的な迎合。このままではいつかまた同じ轍を踏むであろうという気がしてならない。

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