「こげんた」の話
あの日も今日みたいな雨が降っていた。4年前の2002年5月6~7日・・・。
「こげんた」と後に呼ばれるその子猫は、黒キジで手足は白、ハチわれ模様で生後半年くらいの子猫だった。その子がいつからそこにいたのかは誰も知らない。飼われていたのか生粋の野良猫だったのかもわからない。しかし、その子はその夜そこにいた。福岡市某所のゴミ捨て場・・・。多分腹を空かせて食べ物を探していたのだろう。
だが、その子猫はある男に目をつけられてしまった。男は子猫を家につれて帰った。男は子猫に猫用缶詰を与えた。何故かそこはバスタブの中だった。しかし、子猫は嬉しそうにそれを食べただろう。少し食べて子猫は男のほうを見た。「これからこの人がお父さん?」「ごちそうありがとう。」子猫はそう思ったかも知れない。男はおもむろにその子猫に向けてシャッターを切った・・・。
そのあと、子猫がどのような仕打ちを受けたか私には書くことが出来ない。子猫は約4時間に渡る虐待を受け殺された。その画像は自らを「ディルレヴァンガー」と名乗るその男によって、有名なインターネット掲示板2ちゃんねるの「動物大嫌い板(現ペット苦手板)」にアップされた。
その時その板で男は主役だった。あるものは囃し立て、あるものは激しく非難した。あまりのむごたらしさに深夜に関わらず警察に通報する者も続出した。しかし、男は尊大な態度であざ笑うかのように画像を上げ続けた。そして悪夢のような夜が明けた。
翌日、その事件は全国ニュースとなった。男の予想に反し、福岡県警は犯人を特定すべく動いていた。そしてIPアドレスを元に遂に犯人を突き止めた。男は書類送検された。しかし、成人の犯罪でありながら、何故か男の名前も顔も公表されなかった。男が猫は殺さずに逃がしたなどと責任逃れにウソの証言をしたためと、殺されたのが一匹の猫だったため、そこまで重要に思われてなかったのだろう。
事件を知る人たち、特に掲示板の住人の怒りが爆発した。あの状態で生きていて逃がしただと?ふざけるな!!彼らは独自で犯人を特定しようとした。しかし、ネットやPCに詳しい者が多いとはいえ所詮捜査は素人の集団、男の身元特定は簡単ではなかった。
そんな中、「探偵ファイル」というサイトが犯人を探し出し、名前・素顔・住所を掲載した。遺体は流されて見つからなかったようだが、独自で供養をし、戒名として「こげんた」という名前が与えられた。
名もない子猫に名前がつき、犯人の実体は明らかにされ、何がしか焦点のぼやけていた事件が明確な輪郭を見せ始めた。そんな中、犯人逮捕の嘆願書を集めようという意見が誰からともなく出て来た。事件を多くの人に知らせるチラシも数種類出来上がり、嘆願書の形式もほぼ決まり、自主的に署名を集める人たちが徐々に増えていった。しかし、中には暴走するものも現れ、犯人の実家や父親の職場にまで迷惑をかける事態まで招いてしまう。後々これは犯人の裁判にも影響を及ぼした。
時を同じくして、日本から遠く離れたNYで必死でサイトを作っている女性がいた。彼女は事件を知り、居ても立ってもいられなくなったのだ。完成させた彼女は、各関連サイトに挨拶をして回った。
そのサイトの完成度は高く、一般の人たちにもなじみやすいような作りになっていた。そこを通して事件を知った人も少なくなかった。2ちゃんねる住人からも協力者が多数出て来た。署名運動は急速に広がり、活動の拠点は2ちゃんねるからこげんたサイトに移っていった。
そのころ地元福岡では、こげんたサイトの管理人の依頼で、有志がこげんたの飼い主探しを始めていた。飼い猫であれば、犯人を「動物愛語法違反(1年以下の懲役又は100万円以下の罰金)」より重い「器物損壊罪(3年以下の懲役又は30万以下の罰金)」が適用されるからだ。
しかしながら、炎天下の中チラシを配って歩くのはかなりハードなものだった。チラシ配りは犯人の住んでいたアパートを中心に一軒一軒広範囲に配るため、2度に渡って行われた。猫の移動範囲を考慮したためだった。結局飼い主は見つからなかったが、自治体の関心を得ることが出来たようだ。
そんな中、遂に犯人が逮捕、起訴された。8月7日、奇しくもこげんたの月命日であった。
裁判は9月30日と10月21日の2度に渡って行われた。
1度目で結審まで終わり、2度目で判決が下された。スピード裁判であった。私は行き掛かり上裁判を傍聴した。ネット上では尊大で自らをナチスの将軍「ディルレヴァンガー」と名乗った犯人は、現実では小柄で青白く、拍子抜けするほどひ弱で虫も殺せないような青年だった。一体何が、彼をあのような残虐な犯行に駆り立てたのだろう。
小学校の教頭をしているという父親は、証言台に立ち落着いて答えていたが、心中では息子が犯した犯罪に当惑気味なようだった。母親らしき人は終始うつむき加減で、息子の仕出かした犯行内容を聞いている時は何度も耳をふさいでいた。
くだらない自尊心を満足させるために小さな命を残酷な方法で奪い、多くの人を怒らせ、両親まで悲しませてしまった。一体彼は何が得たかったのだろうか。
判決は、懲役6月(6ヶ月)執行猶予3年の有罪判決だった。実刑をくらわなかったのは初犯だったのと、やはり一部の人のあの暴走が有利に働いたようだ。
しかしながら、この判決は従来からすれば司法に於いて異例であり、ひとつの壁を壊し一歩前進した証でもあった。この事件で動物愛護について真剣に考えた人も多く、事件後命を救われた動物は多い。
だが、この事件に触発され、類似事件が増えたのもこの年だった。そして、未だに動物虐待虐殺事件は後を絶たない。先日、また2ちゃんねるペット苦手板で虐待画像をアップする類似事件がおきている。
何故、好んで自分より弱い動物をいじめたり殺したりする人がいるのだろう。動物ならわかりにくいし人を傷つけたり殺したりするよりはるかに罪が軽いということもあるだろう。しかし、その衝動の根っこはどこにあるのだろうか。
鬱憤晴らしであるとか支配欲を満足させるためとか単なる嗜好だとか、理由はいろいろあるだろう。いずれにしろ、私にはさっぱり理解できないし理解したいとも思わないが。
インターネット猫虐殺事件の犯人通称ディル。彼を追い込んだのは結局自らが掲示板に上げた一枚目の写真だった。虐待の残酷さを強調するために撮った、ネコ缶を前にして嬉しそうな子猫の写真。それが結果的に事件の象徴となり、多くの人の同情と悲しみが子猫に集中したのだ。ある意味、こげんたは自分で仇をとったといえるかもしれない。
改めて、こげんた君の冥福をお祈りいたします。
■事件の詳細はここをご覧下さい。
■後に活動の中心となったサイト「Dear,こげんた」
■当時配られたチラシの一つ (黒木制作:PDF)
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コメント
燐さんや黒にゃん。さんにしてみると当時のことは地元であり、そして涙だけでなくかけずり回って奔走してくれただけにより深い想いが命日にはあると思います。
あの時は「どうにか公正な罪を」という気持ちで
飼い主探しから駅のボックスを借りてくれたり、色々な方法で本当に皆「必死」だったよね。
そして4年経った今でもこうして私たちが繋がっているのもこげんたちゃんが残してくれた、もう一つの素敵な「縁」。
これからも宜しく。
出版社が知ってか知らずか 一年ぶりに命日の次の日の読売新聞に「こげんた」の新聞広告が載せられていたそうな・・・
投稿: mimi | 2006年5月 8日 (月) 16:27
この事件、初めて知りました。ちょっとショックですね~。
子供の仕業ならまだしも成人の犯罪とは・・。
子供は残酷で、私も子供の頃野良猫をいじめた経験があります。
もちろん殺したり虐待などはしていませんが・・。
犯人は残酷な子供がそのまま大人になったような感じですね。
そういう大人が矛先を人間に向けたり犯罪を犯したり・・。
これから先もこのような事件は続くのでしょうか・・。
投稿: wanwanmaru | 2006年5月 8日 (月) 21:38
mimiさん、
いやいやmimiさんがいなかったら私らもあそこまでがんばれなかったような気がします。せいぜい近所にチラシを配るくらいでしたよ。そもそもあの福岡チーム自体がmimiさんのサイトを通して集まったようなものですから。ああいう活動はやはり中枢機関があったほうがいいですからね。
駅のボックス・・・、あ~、やりましたね。すっかり忘れてました。思ったより捌けなかったのが残念でした。
「Dear,こげんた」の本の方はまだそれなりに売れてますか?あの本は単なる猫可哀想のべたべたな感情本じゃなく、冷静に動物愛護を訴えているところがすごくいいと思いますよ。
命日の翌日に広告なんて、出版社さんも粋なことしますね。
投稿: 黒木 燐 | 2006年5月 9日 (火) 13:09
wanwanmaruさん、
ご存じなかったですか。でも、私もたまたま2ちゃんねらだったから知ることが出来たのかもしれません。
本当にショッキングな事件でしたよ。私は公判前にやっと勇気を振り絞って2枚目からの画像を見ましたが、2度と見たくないです。ほんとは1枚目のあの可愛い写真ですら見るのが辛いんです。
でも、この事件は犯人が(wanwanmaruさんの喝破されたような)自己顕示欲の強いだけの馬鹿者だったから日の目を見ただけで、水面下ではもっともっと沢山の虐待動物がいるんですよね。表面は平和な日本だけど、見えないところで何かが狂ってきています。
私も子供の頃はけっこう残酷だったかも。蜘蛛の巣にセミを投げたり・・・(汗)。でもそういうなかで、何がイケナイコトか学んで大人になるんですよね。
投稿: 黒木 燐 | 2006年5月 9日 (火) 13:22
初めて書き込みというものをします。文章を見て涙が出ました。傍らには我が家の猫が呑気に寝息を立てています。こげんたちゃん事件は法を動かすというきっかけとなった事件のようですが、実際には誰にも知られる事なく無惨にしんでゆく動物達がどれだけいるのであろうかと思います。なんとなく、と知りながらも目を背けているのも本当です。完璧な共存とはいわない、ただ、このようにストレスの捌け口や快楽の為に小さな命が理不尽に奪われてゆくのには納得がいきません。
投稿: きょろ | 2007年5月24日 (木) 12:13
きょろさん、こんにちは。
書き込みありがとうございます。
こういう事件を知って、傍らの猫の平穏な姿を改めてみると、余計に愛おしくなり、絶対この子らを不幸にしないぞと誓ってしまいますね。
こげんたの事件は、司法を動かしただけでなく、多くの人たちに動物愛護というものを改めて考えさせました。あの事件がひとつのターニングポイントになったのは間違いありません。
たしかに多くの人の意識は変わりましたが、動物虐待事件が減っているわけではありませんね。敵の方もやり方が巧妙になってきている可能性もあります。
人間の力にも限りがありますから、見て見ぬふりをすることも仕方がないことです。私だってそうです。
だけど、きょろさんのように、こういう悲しい現実があるということを気に留めている方が沢山いることが、虐待事件の抑制に繋がるのではないでしょうか。
私達に出来る最小限なことであり、また一番大事なことは、それぞれが今一緒にいるペットたちを最後まで愛情と責任を持って飼うことだと思います。
投稿: 黒木 燐 | 2007年5月24日 (木) 23:33
こんにちは
涙を堪えながら読ませてもらいました。
ただ少し引っ掛かる所があったのでコメントさせて頂きます。
「小さな命を〜〜〜」という所がありますね
小さなっておかしくありませんか?人間の命が大きいとこげんたの命は小さくなるのですか?それは間違ってると思います。私は人間もこげんたも他の動物達も平等な命だと思っています。
あなは違いますか?
投稿: はな | 2009年7月24日 (金) 19:59
はなさん、こんばんは。
うまく説明出来ませんが、「ちいさな命」という表現ですが、命自体の大きさを「小さな」と矮小化したわけではないと思います。ましてや優劣をつけたのでもないと思います。
今、クロロという病気の子猫を保護して、何とか生きて欲しいと頑張っていますが、その子は本当に小さい。そして、軽い。しかし、両手でそっと持つと、彼女の命が両手に乗っているということを実感します。まさに掌に乗る程小さな動物の尊い命です。
小さな命とは、こういうことだと思います。
そして、いま、つくづく思います。
命を奪うことは簡単だけど、命を救うのは大変なことだと。
投稿: 黒木 燐 | 2009年7月25日 (土) 02:53
私の考えがひねくれてるのかもですが…
こげんたちゃんに関する本の第2弾が2009年に発売されたそうです。
あまりにも残虐で可愛そうな事件で
彼の事は忘れちゃいけないとは思う。
でも…本の売上金って?
何に使われてます?
[こげんた]と言う戒名もつけてもらいきちんと供養をされたとネットでは
書かれてます
でも…こげんたちゃんの遺体は結局、見つかってないし
きちんと火葬されたわけでもない。
そう思うとこげんたちゃんは
迷わず天国に行けたかかなぁ…って思わずにはいられません
投稿: なみ | 2012年8月 6日 (月) 06:03
なみさん、こんばんは。
コメントありがとうございます。
あの事件から今年で10年です。
でも、決して忘れてはならない事件だと思います。
こげんたの本の売り上げは、こげんたサイトの運営費や動物を助ける活動に使われています。
ただ、本の方は2冊ともすでに絶版になっているようですね。
決してこげんた君の名を借りて私服を肥やしているわけではありませんので、ご安心ください(むしろ大幅に足が出ているのではないでしょうか)。
こげんた君はみんなが冥福を祈ってくれたので、きっと無事に天に召されていると思いますよ。
投稿: 黒木 燐 | 2012年8月 7日 (火) 02:06
事件を知った時は、恐くて可哀想で流し読みしました(T_T)今でも写真を見ると、こげんたチャンの気持ちを思うと見れません。家の猫もちゃんと感情を持って生きています。松原潤は普通じゃない。頭が可笑しい 弱い者虐めが出来るなんて…孤独な鬼畜野郎だね
投稿: | 2016年1月 1日 (金) 12:18
ついこの間、こげんたちゃんのこと知りました。
これからはこげんたちゃんのこと絶対忘れません。
投稿: かづこ | 2022年4月23日 (土) 23:54