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2.急転 (4)走れ! 美葉!

 二人は『報道バラエティ ディスカッション0(ゼロ)』の内容を見ていたが、大き目の画面とはいえキッチンからでは見えにくい。由利子は葛西を部屋に招き入れることにした。葛西は戸惑っていたが、恐る恐る部屋に入って言われるままにテレビの前にかしこまって座った。
「何緊張しとるん。美葉の事件で部屋を荒らされた時に入ったやろ」
「あの時と違って二人きりなのはどうも……」
「信用してるからさ」
 と、由利子はにっこりと笑った。(でっかい楔だー!)と葛西は思った。

 最初に参加者の属する宗教とプロフィールが紹介されていった。出場する宗教団体は、神聖御統(みすまる)礼拝教団・不思議教団封魔・碧珠善心教会・ミネルヴァ騎士団(ナイツ)・聖宇宙神軍。すべて、由利子が警察から頼まれて調べた教団だった。
「なに、このどこかで見たような豪華ラインナップは!?」
 由利子がやや当惑気味に言うと葛西が
「番組スタッフにあの時の情報が流れていたとしか……
「どんだけザルなんだよ、あんたの組織って!」
「すみません。僕らも色々な重要組織に内通者がいることは把握しているのですが、全容がまったく。だれも尻尾を出さないんですよ。そうとう洗脳され統制されているのではないかと」
「公安はなにやってるんだよ」
「僕らにも彼らはアンタッチャブルな組織なんです。長沼間さんたちは特殊な存在で、それすら計算づくかもしれないんです。その彼等が手を焼いてるのですから」
「推して知るべし……ってやつか。ところで、私の記憶している限りでは、大地母神正教と海神真教がいないようだけど」
「海神真教は、教主のアイさまが超高齢なことやさらに信者も近所のおばあちゃまばかりだから、スルーされたんじゃないでしょうか?」
「そうか、『若い宗教指導者集合!』ってのが前提だからか」
「百二歳ではさすがに」
「ほんとにご健在だったんだ。大地母正教の方はH駅爆弾犯が居たということで、解散命令がでたんだっけ」
「まだごたごたしてますけど、こちらもスルーでしょうね」
「あ、本編始まったよ」
 二人はとりあえず番組に集中することにした。
 最初の方は、『神聖御統礼拝教団』教祖山岡星明・『ネルヴァ騎士団』代表アテナイ・『聖宇宙神軍』教主ウラヌス元帥の三教団が電波全開のトークを繰り広げて司会者やスタジオ観覧者たちの失笑を誘っていた。葛西が最初に音を上げた。
「由利子さん、僕なんだか頭痛がしてきました。それに、タブーコンプラガン無視って、ピーだらけで何言ってるのか……」
「看板に偽り在りだね。まあ、ゴールデンの限界かな。それに災害関連はヤバいでしょ。さっきググってみたけど、生放送故にピーが間に合わなくてずれることがあって、そこがまた人気なのだとか」
「遅延送出システムとは」
「わざともあるかもね。それにしても、こんなに頻繁では、スタッフが討ち死にしちゃいそうで……」
 二人の予想通り、舞台裏はややパニック状態で司会の若手芸人MC『金木星サターン』もフォローで顔面大汗になっている。案の定SNSは絶賛大炎上中である。プロデューサーにいたっては、放送を打ち切ることも出来ずに頭を抱え、心の声がダダ洩れになっていた。
「勘弁してくれよ。嫌な予感はしてたんだ。誰だよ、こんな企画通したのは! 誰でもいいから軌道修正してくれよ」
 彼の願いが通じたのか、その流れを断ち切るように不思議教団封魔の神官炎皇(ポオ)がひときわ通る声で言った。
「いい加減不毛な言い合いはやめましょう」
 鶴の一声に、言い争っていた三人は言い争いを止めた。スタッフたちが感謝と不安の残る目で彼を見た。
「いい気分で言い争っていらっしゃるけど、会場のお客さんをごらんなさい。戸惑っておられるのがわかりませんか?」
「だけど、今、地球が危ないのです! 高次元の存在が……」
 黒のギリシャ風ドレスとブルー系の宝石で彩られたティアラを纏ったアテナイが不満そうにさけんだが、炎皇はそれを遮って言った。
「高次元の存在もディープステイトの陰謀もプレアデスからの救いもありえません! 気象兵器も存在しませんし、大震災も人工地震ではありません!」
 それに由利子が反応した。
「なんか、アレクみたいなこと言ってるなあ。ばりばりの日本人面だけど」
 由利子がつぶやくと、葛西が大きく頷いた。そこに、ディスカッション開始以降、黙って座っていた若い女性がようやく口を開いた。
「炎皇さまのおっしゃるとおりです。現実のこの世界で救済を求めている方々が数多におられるというのに……。戯言で言い合うのはやめて、もっと有意義なお話し合いをいたしませんか?」
 そこで、待ってましたとばかりMCが声をかけた。
「あなたは碧珠善心教会の……」
「はい。月辺陽花(げつべ ようか)と申します」
 彼女はそう言うと立ち上がり、静かにお辞儀をするとつづけた。
「教主が公に姿を現すことが出来ないため、私(わたくし)が代理で参りました。教主の代りとはいえ、若輩者故、つたないところはご容赦願えれば幸いです」
 言い終わると、また優雅に一礼し席に着いた。淡いサーモンピンクのスーツが良く似合っており、仕草に気品と知性を感じさせられた。
「さて、閑話休題。皆さん、改めてディスカッションをお願いします」
 MCが、息を吹き返した魚のように生き生きと仕切り直した。
 その後は炎皇と陽花の独壇場で、人口問題や気候変動やエネルギー問題などが真剣に話し合われた。件の三人は話について行けず、時折アテナイが謎の口出しをして深刻な空気を和ませていた。
 最後に陽花が立ち上がり、カメラに向かって良く通る声で言った。
「この星は、創造主……神が私たちのために最適な環境に作っていただいたものです。金星も火星も地球……私たちは碧珠と呼んでおりますが、この星と似ていながら、生命の育つ環境ではありません。陳腐な言い方ではありますが、まさに奇跡の星です。神はそれを与えて下さいました。そして、守るのは我々人類なのです。守りましょう、この美しい星を!」
「ブラボー!」
 炎皇が拍手をしながら立ち上がり、陽花と握手とハグをしてデスカッション終了となった。
 最後にMCが出演者一人ひとりの意見と感想を聞いたが、最初の三人の勢いは何処へやら、すっかり陽花の言葉に感化されていた。炎皇はにっこりと笑い「存外有意義なお話が出来、重畳でございました」と答え、「きゃ~♡」というファンの歓声がスタジオにこだました。最後に陽花が立ち上がり優雅に礼をして胸に手を当て言った。
「私も、このような場所におよびいただき感謝いたします」
「あのぉ……」MCが陽花に向かって言った。「失礼ですがおいくつなのでしょうか」
「女性に年齢を聞くのはNGですよ」
「申し訳ありません。確か大学生だとお聞きしていますが」
「はい。○○大の1年で、二十歳になったばかりです」
「え? たしか米国のH大を卒業されているとか」
「ええ、間違いありませんわ。今の大学には、サークルで学生たちに、私たちの地球を守るための啓蒙をするために入りましたの」
「しかし、よりによってH大学からFラン……失礼しました!」
 陽花の不愉快そうな表情に気が付いたMCが言葉を濁し、気を取り直して番組を進めた。
「そういえば、顔出しNGの碧珠善心教会教主さまから特別にメッセージを頂いておりました。ご覧ください」
 それと共に画面が切り替わり、暗い中ろうそくの光が煌く部屋が映った。その中央に白いスーツ姿の男が姿勢よく立っていた。逆光なので顔は見えないが、すらりとした容姿で巷で美男子と噂されるのも頷けた。遠くでショパンのピアノ曲が流れている。男が口を開いた。
「みなさん」
 深く心を揺さぶられるような良い声が響いた。
「初めてお目にかかります。碧珠善心教会の教主です。父である教祖の教えを踏襲する者として、すべての信者の兄として、『長兄』と呼ばれております。
 教義により教主は信者以外の前で姿を見せてはならないので、このようなご無礼な形での出演をお許し下さい。月辺から話されたと思いますが、我が教団の教義は、非常に単純に言うと地球を守るということです……」

 テレビ画面を見ながら、葛西が言った。
「確かにイケメンっぽいし声も素晴らしく良いですが、アレクが一番嫌がりそうなエコエコっぽいですよね」
 そう言いつつ由利子を見たが、当の由利子はぼうっとした表情で画面にくぎ付けになっていた。
「由利子さん、由利子さん。どうしちゃったんですか?」
 葛西に呼ばれて、由利子はハッと我に返った。
「ごめん、つい声に引き込まれてしまった。1/fゆらぎってやつかな?」
「たしかに、なんか安心感のある声ですね」
 と葛西も同意する。
「でも、それ以上になんか引っかかるんだよな」
「ひっかかる?」
「う~ん、うまく言えないけど、なんか遠くの方に不安があるみたいな、夢に出てきたお化けに遭ったような」
「たしか、どこかで似たようなことを言ってましたね」
「そうだっけ?」
「あのカルト教団調査の時も、この教団にのみ反応してましたし」
「でも、不安。それだけ」
「う~ん。だけど言ってることは常識の範囲で、特に過激なことはなにも言ってないですよ、って終わっちゃったじゃないですか」
「ミステリアスな男なのは認める」
 そこで2人はしばし会話を止めた。番組のエンディングでクレジットを確認するためだった。

 番組が終わると、まず葛西が口を開いた。
「特に怪しい感じはしませんね。由利子さんはどう思いますか?」
「えっと、私は炎皇さまが好きかな?」
「いや、そうじゃなくて!」
「あ、ごめん。これって偶然とは思えないよね。制作スタッフを調査した方がいいと思う。そういえば、あの後はどうなったのさ」
「今回も由利子さんが反応した、碧珠善心教会について調査を依頼したんですが、なんかうやむやにされちゃって」
「まあ、情けないことに、私もその件についてはすっかり頭からなくなってたけどさ」
「あんなに色々あったんです。仕方ないですよ」
「でもひょっとしたら、何者かに握りつぶされた可能性もあるよね」
「ただ、あのH駅爆破事件の犯人が特定され、そのためにカルト教団もほぼ大地母神正教と決まったようなものですから」
「あんなレベルの宗教団体がウイルスとか作れるわけないじゃん」
「公式発表では、S-hfウイルスはたまたま海外から侵入してきたもので、爆弾犯人はたまたま教団内で感染していた、になってます」
「たまたまって、そのウイルスの侵入経路だって未だ不明じゃないか」
「ただいま調査中だそうです」
「平和ボケかよ」
「知事交代が痛かったです。おかげさまで僕たちウイルス班は今や冷や飯食いですよ」
 と、葛西はふっと自嘲的な笑みを浮かべて言った。
「自虐してないで、もう一度碧珠善心教会について調査すべきやろ。ほんと公安は何してんだよ! ケミカルテロの後にバイオテロとかシャレにならんからね」
「とにかく、僕は戻って過去の調書を洗いなおしてみます」
 そう言うと、葛西は椅子からすっくと立ち上がった。
「え? 今から?」
「はい。善は急げです。それに……、あまり長居すると送りオオカミになっちゃいますから」
「えーっと、それは冗談で言っているのか……な」
 由利子はそそくさと玄関に向かう葛西の背に向かってつぶやいた。
  
 葛西は玄関で靴を履くと、立ち上がってくるりと由利子に向かい合った。由利子は不安そうな表情で葛西を見ていた。
「今日は楽しかったです。ありがとうございました。お茶とクッキー美味しかったです。ではまた」
「なんか急かしちゃったみたいでごめん。でも無理はしないでほしい」
「大丈夫です。こう見えても僕はタフですから」
 葛西は由利子を安心させるように笑顔で言うと、去って行った。葛西が去った後、言いようのない不安と寂しさに襲われ、由利子は玄関先でしゃがみこんだ。ベッドの上で爆睡していた猫たちがドアの音で起きてきたらしい。二匹は葛西を探すような仕草をした後、そっと由利子に寄り添った。

 その少し前のこと、美葉の身に転機が訪れようとしていた。
 夕方結城が所用で出かけていた時、ドアをノックする音がした。美葉は用心深くインターフォンの画面を見た。そこには清掃員の姿をした武邑が立っていた。
「はい」と美葉が小声で返事をし存在を知らせた。ターゲットの存在を確認した武邑は用心深くスマホ画面を向けた。それには『決行今夜九時四十五分。気取られぬように』と書いてあった。美葉の表情がぱっと明るくなった。しかし、美葉は努めて冷静に「はい」と答え、それを受けて武邑はすぐにその場を離れた。
 美葉はそのままへたへたとその場に座り込んだ。
(やっと……、やっと解放されるんだ……)
 嬉しさに涙がこぼれた。しかし、気を緩めてはいけない。もし今夜失敗したら、その時はもっと過酷な生活を強いられることになるだろう。美葉は涙をぬぐうと今のことは心の中に抑え込み、平常どおり籠の鳥を演じることにした。

 その夜、結城も『ディスカッション・ゼロ』を見ていた。美葉はその横に座ってぼんやりと画面を見ていた。彼女にはどうでもいい内容だった。特に陰謀論バトルを見ながら思い出すのは由利子のことだけだった。
(由利ちゃん、こういうのにツッコミ入れるの好きだったよね……)
 美葉は、一緒に見ているのが由利子だったらと、ぼんやり思っていた。現実には結城が横で訳の分らないことをぶつぶつ言っている。それは、炎皇と陽花の対談になるとさらに激しさを増した。結城がぶっ壊れていることを美葉はとっくに気が付いていた。純粋にこの男が気持ち悪くなって、この悪夢から一刻も早く逃げたいという気持ちが募った。そう、悪夢はもう終わるのだ。きっと帰れる。帰ろう。帰るんだ。帰ったら……。
「長兄様!」
 美葉は結城の声で我に返った。
「長兄様、私は長い旅を終え帰ってきました。どうして未だお声をかけて下さらないのですか……」
 その後はまた聞き取れなくなってしまった。男が語り終え退場した後も結城は床にひれ伏してぶつぶつ言っている。その時、インターフォンの呼び鈴が鳴った。はっとして時計を見ると、九時四十五分になっていた。美葉が玄関の方に向かおうとすると、我に返った結城が素早く立ち上がり、それを阻止しようと美葉につかみかかった。しかし、美葉は今までの恨みを込めて結城の腹を肘で一撃した後軽々と結城を投げ飛ばした。空中に弧を描いて結城は床に落ち、気を失ったようだった。美葉は素早く結城の首から例のロケットペンダントを奪うと、玄関まで駆けドアを開けた。そこには武邑が一人立っていた。美葉は結城の方を指して言った。
「結城はあそこで伸びています」
「あれをあなたが?」
「はい!」
「すごいですね」
 武邑が関心して言った。
「あの、ひとりで?」
「すぐに応援が来ます」武邑はにこっと人好きのする笑顔で言った。「このまま非常口から階段を下りて建物の外に出てください。そこで車が待機していますから。さあ、急いで」
「はい!」
 美葉は言われたとおりに部屋を出て駆けだした。
(自由! 自由! ようやく自由になれるんだ!)
 今までのことが脳裏に浮かんでくる。美葉は緑に光る非常口誘導灯を目指して走りドアを開け、躊躇せずに階段を駆け下りた。

 武邑は結城に近づくと、軽く頭を蹴った。
「あの時は、お世話になったな。おかげでたっぷりひと月ちかく『休養』できたよ」
 そう言うと、武邑は結城の顔を踏みにじろうと、ゆっくりと右足を上げた。
「やめるんだ、武邑」 
「長沼間さん」
 応援とは彼のことだったのか、開け放されたドアを背に長沼間が立っていた。
「多田美葉は?」
「非常口から逃げて行きました」
「逃がしたのか? 護衛もつけずにたった一人で?」
「保護の手配はできていますよ」
 と、武邑は笑顔で立ち上がり、結城の頭を足でつつきながら言った。
「こいつには引っ掻き回されましたからね。蹴り殺したって足らないくらいですよ」
「ミイラ取りがミイラになる。潜入捜査官にはよくあることだ」
「そうですね。で、長沼間さん、ここが敵陣だとわかってて一人で来たんですか」
「ああ」長沼間は、外に数人の気配を察しながら落ち着いて言った。「お前が眷属だってこともな」
「あーあ、かなわないや。やっぱりわかってたんだね」
 武邑は、屈託のない笑顔を長沼間に向けながら言った。

 美葉は、非常口から外に出ると、辺りを伺った。そこは人通りのない、ビルのはざまの路地だった。右手の方に自動車が止まっていた。あれが武邑の言っていた車だろうと判断し、美葉はその横に立っている男に駆け寄って呼びかけた。
「助けてください! 私、私……」
 そこまで言うと、かすれて声が出なくなり座り込んでしまった。
「よくがんばりましたね」
 男は優しく言うと美葉に手を差し伸べた。
「立てますか?」
「あ、はい。すみません」
 美葉は男の手に支えられながら立ち上がった。小柄な中年くらいの男だが、街灯に照らされた顔の半面は冷たく整っていた。美葉が立ち上がると、車の後部座席から声がした。
「早く美葉さんを車に」
「かしこまりました。さあ、美葉さん。早くこちらへ」
 男は車の後部座席のドアを開けた。美葉は急いで座席に滑り込むように乗ると言った。
「ありがとうございます。たすかりました」
「よく頑張りましたね」
 と、横に座っていた男が言った。心にしみるような優しい声音だったが、美葉には聞き覚えがあった。
「さあ、行きましょう。車を出してください。
「かしこまりました」
 車は美葉を乗せて発進した。美葉はほっとしたものの、なにか違和感を感じていた。運転手の答え方からして、警察官ではなさそうだった。では、いったい何者が……? 美が葉がやや不安になってきたところで、横の男が言った。
「美葉さん、結城から奪ってきたものがあるでしょう?」
「はい」
 なぜか、美葉は素直に答えた。
「私に渡してくださいますか?」
「はい……」
 美葉は言われるがままに、結城のロケットペンダントを差し出した。男はそれを受け取り、穏やかな声で言った。
「ありがとう。これは私のものだったのです」
 男の声の心当たりに、美葉はやっと気が付いた。ついさっき、テレビに出ていた教団の教主とかいう男の声だ。その教団の名前は、名前は……? 美葉の背筋に冷たいものが走った。
「あなた、ひょっとして? じゃあ、あの人もグル? なんで私を連れだし……て?」
「申し訳ありません。あなたと結城を、ある男をおびき出すエサにしたのです」
「そんな……。じゃあ、私は」
「はい。解放するわけにはいきません」
「帰してよ。私の日常を返してよ……。平和な日々に戻して!!」
 絶望した美葉が、教主の顎に一撃をくらわそうとした時、彼女の鼻先になにかガスのようなものがかかった。美葉はそのまま気を失った。

 

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