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1.攪乱 (7)バイ=ブロウ(By-blow)

 由利子が目を覚ますと、横にギルフォードが座って心配そうに見ていた。その後ろでは紗弥がまた心配そうな表情で立っていた。
 由利子は記憶が混乱しており、戸惑った表情をして順繰りに二人を見た。ギルフォードは心配と安堵の入り混じった表情を浮かべて言った。
「大丈夫ですか?」
「アレク、私・・・」
「ここは市内の救急病院です。君が地下街で倒れたので救急車で搬送されたんですよ」
「倒れた? 私が?」
「君は、意識を失う前に、ジュンと僕に知らせてくれと、駆け寄ってくれた通行人の人に伝えたんだそうです。それで、その人が救急の人に伝えてくれたので、僕が駆けつけることができました。ジュンももうすぐ来ると思いますよ」
 ギルフォードの説明を聞いているうちに、由利子の記憶がだんだんと戻ってきた。由利子はガバッと半身を起して言った。
「今何時!?」
「もうすぐ8時半ですが」
「1時間過ぎてる・・・」
 由利子はぶるっと身震いすると、続けて言った。
「あいつ! あいつがいたのよ、結城が!」
 思いもかけない男の名前を聞き、ギルフォードは驚いて訊ねた。
「ユウキ? あの男に会ったのですか? 一体どこで?」
「アレク、私悔しい・・・!!」
 由利子が怒りに身をわななかせながら言った。ギルフォードは由利子にただならぬことが起こった事を察知して、そっと彼女を抱擁しながら言った。
「大丈夫です、もう大丈夫ですよ、ユリコ」
 由利子はよほど動揺していたのだろう。ギルフォードの腕の中で、むしろ安心したように心中を吐露した。
「恐かった。恐くて何も出来なかった。悔しくてたまらなかったのに、それ以上に怖かった・・・」
「ユリコ、先ず落ち着きましょう。説明してくれないと、僕たちには何が何だかわかりませんよ」
 ギルフォードが困って言った時、葛西が息せき切って駆け込んで来た。
「由利ちゃん大丈夫?! 何が・・・」
 そこまで言ったところで、由利子がギルフォードと抱き合っているのを見て、一歩引いてから固まった。
「ゆ、由利ちゃん、いつの間にアレクとそんなことに」
 由利子が我に返ってギルフォードからパッと離れ言った。
「違ーーーう!」
「違います!」
 と、ギルフォードもほぼ同時に言った。
「大丈夫、いつものハグですわ。いい加減慣れてくださいませ」
 葛西はいきなり背後か声がしたので飛び上がって驚いた。
「さ、紗弥さん、何時の間にここに?!」
「失礼ですわね。最初からいましたわよ」
 と、紗弥が珍しく少しむっとした表情で言った。
 30秒ほど遅れて入って来た九木は、病室内の妙な空気に気付いて軽く肩をすくめた。

 頼れる者たちの顔を見て、何とか落ち着きを取り戻した由利子は地下街での出来事を話した。
「結城が地下街に・・・」
 と、葛西が言った。
「お尋ね者のくせにいったい何をしに来たんだ。まさか、また何か仕掛けるために・・・?」 
 すると、九木がうむと頷きながら言った。
「祭りもあることだから、可能性はあるね。警備をさらに厳重にしたほうがいいだろう」
「ミハを置いて、捕まる危険を冒してまで来たのですから、よろしくない用事があったんでしょうケド。それでユリコ、ユウキはウイルスを持っているとはっきりと言ったんですね?」
「ええ。真偽のほどはわからなかったけど・・・」
「それで、騒げばウイルスを撒くなどと言われれば、言うことを聞かざるを得ないでしょう。しかも、ミハを人質にとられているならなおさらです。ユリコ、そんなに自分を責めちゃいけませんよ」
「でも、やっぱり悔しい。ひょっとしたらあの時結城を捕らえることが出来たのではと思うと・・・。あいつの言うなりにしか出来なかった自分がふがいなくて、ふがいなくて・・・」
 と、由利子は膝の上で握りしめた両拳を震わせながら言うと、唇を噛んだ。それを見て九木が諭すように言った。
「篠原さん、君は警官じゃないんだ。素人が下手なことはするべきじゃない。君の判断は間違っていなかったと思うよ」
「九木さんの言うとおりだよ、由利子さん」
 と、葛西が相槌を打って言った。
「それにしても、1時間過ぎたら通報していいとか、ふざけたヤローだ。捕まらない気満々で、なんかむかつくな」
「なにがしかの自信があるんだろうな」
 と、九木が言った。
「移動も捕まるリスクの高い飛行機は避けるだろうが、新幹線を使えば、かなり遠くまで逃げ切れるだろう。その後でローカルバスなどに乗られれば、行先を特定するには難しくなる。指名手配されていても、もし容貌が変わっているとしたらなおのこと、発見されにくくなっているだろうからね。篠原さん、ヤツの顔は見ることが出来たかな?」
「あいつが横に立った時になんとか横目使って確認しようとしたんです。それで、よくは見えなかったし、眼鏡とマスクで顔を隠していたけど、結城に間違いないと思います。でも、ずいぶんと年をとっているような感じだったなあ」
 由利子がそう言うと、今まで黙っていた紗弥が口を開いた。
「ひょっとしたらですが、誰も自分に気付かないと言うことを試しに来たのではないでしょうか?」
「え? そんなことで?」
「ええ。他にも用件があったのかもしれませんが、指名手配中の人間は、普通用心して街中を歩きまわることは避けるのではないでしょうか。それなのに、地下街でわざわざ由利子さんに近づくような大胆な行為に出た」
「なるほど」
 紗弥の意見に九木が納得して言った。
「何年も逃亡していた指名手配犯が逮捕後の調べで、街中に出没していたり、ともすれば潜伏していたなんてこともありますからな。犯罪者特有の心理なんだろうが」
「では、ひょっとしたら、遠くに逃げたと思わせて、意外と近くにいるという可能性もあると言うことですか」
「まあ、それはわからんがね、由利子さんに地下街の防犯カメラを見て、現在の結城の姿を探してもらいたい」
「また、モニターとにらめっこするんですね」
 と、由利子がげんなりして言った。
「それにしても、由利ちゃん、大丈夫なの?」
「誰が由利ちゃんだっ!」
「ああ、いつもの反応だ。良かった」
「なんか、お約束が成立してますね」
 と、ギルフォードがやや笑いながら言った。
「気を失ったのは、極度の緊張が解けたからだろうと言うことでした。わき腹にちょっと打撲痕があるそうですが、特に問題ないそうで、目が覚めたら帰っても大丈夫だろうということでした」
「わき腹に? 由利ちゃん、あいつになにかされたの?」
 ギルフォードの説明を聞いて葛西が再び心配そうに言ったので、由利子は安心させようと答えた。
「何か金属の棒みたいなもので小突かれたんだ。最初、銃かと思ってビビっちゃったよ。めちゃくちゃ痛かったけど、今は大丈夫だよ」
「ナガヌマさんの部下やミツキもユウキの持っていた武器に瀕死の重傷を負わされました。ユリコ、ホントに無事でよかったです」
「そ、そうだった・・・」
 ギルフォードに言われて改めて由利子はぞっとした。葛西はそれを聞いてさらに心配そうに言った。
「あの、アレク、あいつが由利子さんにウイルスを感染させたなんてことはないですよね」
 由利子はぎょっとしてギルフォードの方を見た。ギルフォードは葛西の質問に答えた。
「そのつもりなら、こっそりと近寄ってウイルスに曝露させるでしょう。わざわざ近寄って正体を明かし、その上ウイルスをばら撒くという脅しをかけたということを考えたら、ユリコにウイルス感染させるつもりはなかったと思いますが・・・」
 それを聞いて葛西は少し安堵したが、ギルフォードはさらに続けた。 
「ただ、ウイルス所持をしている男と接触したのですからまったく可能性がないとは言い切れませんので、しばらくは様子を見ることになるでしょう」
「じゃあ、私も隔離されちゃうの?」
「その必要はないでしょう。もっとも、近日中に高熱を出すようなことがあれば、念のため隔離されることになるでしょうけど」
「冗談じゃないわ。絶対熱なんか出さないから!」
 (あんの疫病神!)と、由利子は心の中で結城を罵った。
 未だ心配を払拭され切ってない葛西に、事と次第を把握した九木が言った。
「葛西君、くよくよしても仕方がないだろう。それよりやつの望み通りにしてやろう。本部に連絡して急いで広域緊急配備をかけるよう要請してくれ」
「はい!」
 九木に言われてすぐに電話をかけ始めた葛西を見ながら、由利子は言いようのない不安を感じて無意識に両手を握りしめた。

 由利子は結局ギルフォードに送られて帰宅した。
 葛西が送りたがったが、今朝からの集団感染死事件や美波美咲の証言、そして結城出現と問題事項の目白押しで、ギルフォードに一任せざるを得なかった。二人がことを急いでいるのは、結城の変貌故であった。
 由利子はあの後、対策本部のデータベースに転送された地下街の防犯カメラの映像を確認した。
「あ、居たっ! こいつが結城よ」
 由利子が結城と遭遇した時刻前後の地下街の映像を見ながら由利子が言った。葛西が驚いて言った。
「早っ。もう見つけたんですか? まだ5分と経っていませんよ」
「しかも、この人ごみの中で? 聞きしに勝るだな」
 と、九木も感心して言った。しかし、それ以上に由利子が結城と確認した男を見て誰もが驚いた。
「ええっ? これが結城? 九木さん、これは・・・」
「うむ、マスクとメガネのせいもあるかもしれんが、とても手配書と同一人物とは思えんな」
「20歳くらい老けて見えます。ユリコ、よくこれが結城だとわかりましたね」
「これは急いで手配書をつくりかえないと!」
「うむ。篠原さん、お疲れのところ、ご協力感謝します。君を脅したことを、結城に後悔させてやりますよ」 
 九木が由利子に向かって言った。

 帰りの車中、由利子は予想通り、ギルフォードから懇々と諭される羽目になった。
「君のことだから、きっと僕たちのためにお祭りの下見に行ったんだと思いますが・・・」
 ギルフォードは前置きしてから続けて言った。
「無事だから良かったものの、最悪のケースも考えられました。実は・・・」
 ギルフォードは、由利子に今日美波美咲から聞いた話をした。
「え? 今日の集団感染死事件が誰かが意図的にやったかもしれないてこと?」
「そうです。犯人が結城だとは思えませんが、奴が市内に姿を現せたというのは、偶然ではないかもしれません」
「・・・」
 由利子は言葉を失った。ギルフォードは、これ以上ないくらいに真剣な表情で由利子に言った。
「いいですか。これからは絶対に単独行動はしないこと。必ず僕かジュンかサヤさんか、あるいはそれに相応する信頼できる人に同行してもらって、帰りも玄関ドア前まで送ってもらうんですよ」
 道中、由利子はギルフォードから延々と口を酸っぱくして言われ続け、しまいには辟易してしまった。
 ギルフォードは、言った通りにドアの前まで送ると、由利子に荷物を渡して言った。
「これで全部ですか」
「ええ。荷物まで持ってくれてありがとう」
「しかし、ずいぶんと買い込んだものですね」
「いや、まあ」
「無くなったものとかは?」
「いえ、大丈夫です」
「ホントにこの国の人たちは立派ですね。街中で人が倒れても、誰も荷物を持って逃げる不届き者が居ないなんて」
「運が良かっただけだよ。不届き者は何処の国にでもいるって」
 と、由利子は言ったが、ギルフォードに言われて少し誇らしく思った。
「あ、そうだ」
 と、ギルフォードは去り際に振り向いて言った。
「こんど、ショッピングに行くときは、サヤさんも誘ってあげてください。彼女、なかなか自分からそういう時間を持とうとしないので」
「え? そうなの? いつもおしゃれな服着とおやん?」
「ほとんどネット通販みたいです」
「そっか。うん、わかった。今度声かけてみるよ」
 由利子が快く答えると、ギルフォードは安心したように笑って「ありがとう」と言い、もう一度手を振って去って行った。

 由利子は部屋に入ると荷物をその辺に置き、そのままベッドに倒れるようにして仰向けに横になった。
 地下街で結城に襲われたことと、その後モニターとにらめっこをしたせいで、疲労度は日頃の数倍になっていたのだ。猫たちが心配そうにやってきて、由利子の両肩あたりにそれぞれが座った。
「ああ、遅くなってごめんね。すぐにご飯をあげるからね」
 と、由利子は2匹に言ったが、ひょっとしたらこの子らに会えなくなったかもしれないと思うとぞっとして身を起こした。それから2匹をぎゅっと抱きしめた。2匹は訳が分からずジタバタしていたが、由利子は不意に彼女らを解放し、再びバタンと仰向に倒れた。
 数分後、由利子は大儀そうに起き上がった。
「シャワー浴びないと気持ち悪い・・・」
 それを見て、猫たちが甲高い声で鳴きだした。
「ああ、ごめんごめん、すぐにご飯あげるって言ったっけね」
 由利子はそういうと立ち上がった。時計を見ると時間は既に夜11時を過ぎていた。由利子はえさをやる前にテレビをつけ、チャンネルをニュース番組に合わせた。考えたら、今日の昼にニュースを見て以来、ネットニュースすらチェックしていなかった。NS10は終板に近い時間なので、11時ごろから始まるニュース番組にした。つけるとすぐにサイキウイルス関連のニュースが眼に飛び込んできた。
「今朝、F県K市で6人がサイキウイルスに感染した事件ですが、6人目の男性の死亡が確認されました。これで、サイキウイルス関連の死者の総数は31人となりました」
「ああ、やっぱり死んじゃったなあ・・・」
 と由利子はつぶやいた。ニュースは朝の患者搬送の映像や、感対センターの静止画等を絡めながら進んだ。
「死亡したのは最後に死亡されたFさん21歳男性を含め、Aさん22歳男性、Bさん21歳女性、Cさん21歳男性、Dさん20歳女性、Eさん16歳女性の6名です。なお、感対センターでは今回の集団感染死について、密室内での感染によるもので、これが感染爆発につながる可能性は低いという見方は変えておらず、感染者の所属する大学や高校の閉鎖はしないとしながらも、感染者の交友関係から、感染経路や新たな感染者の有無を調査する方針としています。次のニュースです。先ほど国道○○号線トンネル内で起きたトレーラー事故による火災ですが、まだトンネル内に十数台の車が取り残されていると見られています。現場の島浦記者からのレポートです」
 画面はトンネル事故現場に変わり、記者のレポートが始まった。深夜故に、火災の状況が赤々と映し出された。
「うわ、大事故じゃん。都心に近いし、サイキウイルス事件は完全に霞んじゃったな」
 由利子は事故の様子を見ながら複雑な気持ちで言った。

 その頃、海の向こうでは、美波美咲隔離の波紋がとんでもない方向に向かい、ある男にそのとばっちりがかかろうとしていた。サイキウイルスでの集団感染死事件があり、感染源が無症候性キャリアの女性らしいという情報が米政府にも伝えられたが、それが無症候性キャリアからの感染が確実であるような内容になっており、さらに無症候性キャリアの可能性がある人物リストとして、ジュリアスと葛西の名が記された文書が添付されていた。何故かメガローチ捕獲チームの資料が紛れ込んでいたのだ。

 ジュリアスは、兄から火急の用ということで呼ばれ、大学での仕事を早めに切り上げ、空港に向かっていた。タクシーを降り、空港に入ろうとしたところでわらわらと防護服の男たちに囲まれた。
”なんだ、君たちは!?”
 ジュリアスは身の危険を感じて一歩後退りながら言った。
”ジュリアス・アーサー・キングさんですね”
 と、リーダーらしき男性が言った。
”フルネームで呼ぶんじゃないよ。・・・だったら、何だい?”
”日本でサイキウイルスの研究に関わっていらっしゃいましたね”
”ああ、確かにそうだが、ウイルス感染防止対策は十分にやっていた。僕が感染している可能性はほぼ0だ。体調に関しても、何の問題もないよ”
”ドクターは、日本でサイキウイルスに感染した学生が6人死んだ事件を御存知ですか?”
”もちろん。朝のニュースでも見たし、日本の友人からメールももらったけど?”
”無症候性キャリアからの感染と言うことも?”
”ああ、聞いてるさ。僕らはそんなことありえないと思っているけどね”
”残念ながら、あなたを無症候性キャリアの恐れがあるとして、隔離をするよう要請がありました”
”なんだって? そんな馬鹿なことがあるもんか。僕はウイルスに曝露された覚えなんか一切ないぞ!”
”それは、これから行った先で説明してください。私たちはあなたの身柄を確保し移送するよう命令されているだけです。抵抗すれば、強制的に身柄を確保することになりますよ”
 男は言葉こそ紳士的だったが、態度や言い方にかなり威圧感があった。ここで抵抗すれば、間違いなく拘束されてしまうだろう。万が一逃げ切れたにしても、疑いの晴れない限り日本に行くことは不可能である。ジュリアスは出来るだけ穏便に厄介ごとから逃れようと、ポケットのスマートフォンを指さして言った。
”情報に食い違いがあるようだ。ちょっと兄に連絡をとらせてくれよ。CDCの職員なんだ”
”その必要はありません”
 そういうと、男はジュリアスに銃口を向けて言った。
”今のあなたは危険人物と言うことになっています。抵抗すると容赦なく撃ちます”
”くそ! あんたたち、保健所の職員じゃないな”
 ジュリアスが鼻白んで言ったその横に、搬送用の小型救急車が止まった。ジュリアスは有無を言わされず車に押し込まれ、そのまま連れ去られていった。

20XX年7月3日(水)
 ギルフォードは朝早くから電話で起こされ、半分寝た頭で枕元の携帯電話を取った。
「はい、ギルフォードです・・・」
”アレックス!"
”クリスか? あのな、こっちは今何時だと・・・”
”すまん。まだ寝ているとは思ったが、大変なことがおこった”
”大変なこと?”
”ジュリーがサイキウイルス感染の疑いで捕まった”
”なんだって!?”
 ギルフォードは一発で目が覚めた。
”そんな馬鹿な!!”
”目が覚めたか?”
”覚めるわ! なんでジュリーが"
”そっちで症状の出ていない女性からの感染者がでただろう?”
”無症候性キャリアの件なら、あくまで可能性の話で、まだそうと決まった訳じゃない。現に俺たちは懐疑的だ”
”私もそう思うが、これでは、確定事項になっているぞ”
”はあ? 何で”
”日本政府からの公文書だ。しかも、ご丁寧に、ジュリアスとミスター葛西の名前が、無症候性キャリアの疑いがある人物として記載されている”
”畜生! 誰がそんなことを書きやがった! あいつらはメガローチ捜索に関わっただけだぞ”
”だが、厚生労働大臣のお墨付きだ”
”めくら判押しやがったな!”
”私はその文書を見て、すぐにジュリアスにこちらに来るように言った。取り敢えずウチで保護しようと思ってな。その途中で白昼堂々、半ば誘拐するように連れ去ったらしい。驚いた通行人からの複数の通報があったようだ”
”なんで、迎えに行かなかったんだ”
”まさか、こんな早く動くとは思わなかったんだ”
”で、ジュリーは何処に連れて行かれたんだ”
”問い合わせているんだが、極秘事項とやらでなかなか教えてくれないんだ”
”なんでだよ”
”誘拐されてテロに利用される可能性アリだそうだ。こっちは天下のCDCなんだぞ”
”炭疽菌テロのことがまだ尾を引いているのか”
”そんなことはないと思うんだが・・・、って、あれは結局軍の内部漏洩だっただろーが!”
”とにかく、生きてはいるんだろうな”
”当たり前だろう。殺す理由なんかない。だが、行動の早さから、多分軍がからんでいる”
”何?”
”多分誰かさんの嫌がらせだろうな”
”なんだって?”
”カワベサンの時に失敗したからな”
”じゃあ・・・”
”たぶん、あそこにいる”
”あんのクソヤロー!! ”
”おいおい、早朝に大声はよせ。ご近所から苦情がくるぞ。それに、これは私の想像にすぎないからな。怒るのは確定してからにしてくれ。とにかく、ジュリーの居場所がわかったら教えるから、やきもきして待ってろ。じゃな”
 と、クリス・キングは一方的に電話を切った。
”待ってろだとーーー!?”
 ギルフォードは電話に怒鳴ったが、すぐに思いなおして言った。
”たしかに、待つしかないか・・・”
 一方、電話を切ったキング兄は、ため息をついていた。
”おまえが行方をくらました時、私たち兄弟は探し回ったんだ。たまにはおまえもやきもきしていろ。・・・しかし、今回も私はやきもきするほうなのか。損な役回りだよ、まったく”
 朝5時に叩き起こされたギルフォードだが、当然もう一度寝る気にはなれなかった。彼は落ち着きを失って室内をウロウロした。ギルフォードの声で目覚めた美月も、訳の判らないままギルフォードの後をついてウロウロしていた。

修正:感染死した人の名まえは出さないよなあと気がついて、仮名にしました。(9月23日)
   (死亡者名簿には名前を掲載しています)

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