5.出現 (1)由利子とギルフォード
由利子は落ち込んでいた。4時ごろ社長に近くのファミレスの呼び出され、そこで退職を迫られたからだ。
「ということは、私に会社を辞めろということですね」
由利子は、コーヒーカップをガチャンと置きながら言った。
「すまないと思っている。だけど、本当に我が社は今、倒産寸前なんだ」
「そんなことは私に関係ありません。あくまで経営上の問題でしょう」
由利子は眉を寄せながら言ったが、それに構わず社長は続けた。
「今二つある事業部をひとつにまとめようと思っている。それで、事業部から何人か退職者を募ることにしたんだ。それで、今事業部にいる女性は君と黒岩君の二人だが、どちらかに退職をお願いしようということになった。だけど、黒岩君はもう46歳だろ? 今辞めたらおそらく次は無い。それに彼女の娘さんはまだ義務教育中だから、そうなったら大変だ思うんだ」
由利子は、30代だって女性の場合、次の就職は相当難しいわよ、と思ったが、黙っていた。黒岩の方を残そうという会社の温情は理解できたからだ。
「君には申し訳ないが、そういうことだ。良く考えて欲しい。今なら退職時に出来るだけ多くお金を払えるようにしてあげるから」
と、社長は言うと立ち上がった。
「はあ・・・」
由利子は座ったまま、気の抜けた返事をした。
夕方5時はすでに過ぎていたが、由利子は帰る用意もせずに頬杖をついてぼおっとしていた。あの社長の様子では、遠からず自分はここを去ることになるだろう・・・。そう思ってもなんかピンと来ない。自分ごとのような、他人事のような、それでいてやる気が無くなるような、逆に気分が高揚するような、複雑な気分だった。周りの人間も心なしか由利子に対して気を遣っているように思えた。そんな時、由利子の携帯電話に着信が入った。美葉からだ。
「もしもし?」
「あ、由利ちゃん? 私」
由利子はいきなりの電話に驚いていった。
「どうしたの?」
「あのね、今からうちに来れる?」
「う~ん、いいけど、何かあったの?」
「何日か前から、見張られとぉみたいなん」
「それって、まさか例の彼?」
「違うと思う。でもなんか気持ち悪くて・・・」
「わかった、出来るだけ急いで来るけん、待っとって」
そう言って電話を切ると、由利子はすぐに帰り支度をして会社を飛び出した。
長沼間は、部下と共に車の中でターゲットを見張っていた。
「今日で三日ですが、特に変ったところはありませんねえ。ふつうに会社と家と往復してるだけだし」
と、部下の武邑(たけむら)が言った。彼は小柄で童顔でいわゆるぼっちゃん刈りのおよそ公安とは思えない外見をしている。
「いや、ヤツは必ず彼女と接触を持とうとするはずだ」
「必ず、ですか?」
「ヤツが今、孤立無援の状態だからだ。必ず女とコンタクトをとろうとする」
多分ヤツを追う連中も同じことを考えているはずだ、と長沼間は思った。俺たちが彼女を見張っている間は連中も迂闊に彼女に手を出せない分彼女も安全なはずだ・・・。そう思った時、バイクの音がだんだん近づいてくるのに気がついた。それはすぐ傍に停まった。様子を見ていると、そのライダーはバイクから降り、まっすぐに長沼間たちの車に近づいてきた。
「うわぁ、でかい外人ですよ。こっち来た! どうしよう」
武邑はあせったが、長沼間は別の意味で困っていた。男がギルフォードだとわかったからだ。
(あちゃ~)長沼間は思った。(やれやれ、これで張り込みは台無しだな)
長沼間は仕方なく車から降りて、ギルフォードと対峙した。
「Hi! ナガヌマさん、こんなところでお会いするなんて奇遇ですね」
ギルフォードは笑顔で近寄ってきた。
「とにかく乗ってくれ。目立ってしょうがないやね」
長沼間はそう言うと後部座席を指で示した。(よりによってこいつが、それもバイクの爆音という鳴り物入りで来るとはな・・・)長沼間はげっそりした。ギルフォードが車に乗ると、長沼間も再度乗り込みながら言った。
「奇遇なもんか。お前さん、狙って来ただろ?」
「あ、バレマシタか」
「バレましたかじゃねえよ。職務妨害しやがって。目標に気づかれたらどうしてくれる」
「ちょっと、気になることをお聞きしたくなったので」
ギルフォードは相変わらずニコニコしながら言った。
「お前さんがそういう笑顔の時は、ろくなことがないんだよ、先生。ところでどうやってここがわかったんだ?」
「はい、サヤさんに尾行をお願いしました。そして場所を知らせてもらいました。最近は携帯電話でもナビが出来て便利ですね」
「・・・・。教授秘書がプロに気づかれずに尾行を遂行したのか? 彼女はもともと、何の仕事をしていたんだ?」
「僕もよくワカリマセン。CIAだったのかひょっとしてスペツナズだったか、はたまたシノビノモノだったのか」
「『忍びの者』とかゆーな。焼鳥屋で豚足が食いたくなるだろーが」
「九州のヤキトリ屋は不思議ですね。ヤキトリ屋なのにトンソクがある。ギュウサガリもあるし、ヤキザカナも・・・」
「焼鳥屋談義はどうでもいい、気になる事ってなァなんだ! さっさと訊いてとっとと帰ってくれ」
長沼間から話を振ると、ギルフォードはにっこり笑いながら質問を始めた。
「ナガヌマさん、あなた、M町の資料集めに妙に協力的でしたし、カツヤマ先生からの司法解剖立ち会いの依頼もあなたからでした。何よりその前からあなたはバイオテロに興味を持ち、私の授業の熱心な聴講生てした。ひょっとして、あなたは何か知っているんじゃないですか?」
「藪から棒になんだ? アレクサンダー、あんたの方こそ何かあったのか?」
「ええ、ひょっとしたらとんでもないことが起こりかねない状況です」
「何だよ、とんでもない事って」
「それはヒミツです」
「そんな昔のテレビ番組みたいなことを言ってないで、教えたらどうなんだ?」
「まず、あなたが質問に答えてからです」
「あのな、お前さんが何を思ったかは知らないが、関係するとしても多分偶然だ。俺は今、この前あんたの研究室で話した例の男を追って、いまも見張り中なんだ。お前さんみたいに目立つヤツがいると迷惑なんだよ、アレクサンダー」
「偶然? ホントニそうですかぁ?」
ギルフォードは疑いの目で言った。
「それより先生、あんたの言った『とんでもないこと』ってのが気になるんだがね」
長沼間がそう言った時、助手席の窓ガラスを叩く音がした。驚いて見ると、女性が立っていた。窓ガラスを叩いた右手には携帯電話、左手は腰にあてており、眉間にはくっきりと縦皺が入っている。長沼間は再びげっそりした。
(千客万来だな・・・)
それは長沼間の知っている顔であった。ただし一方通行であるが。長沼間は、恨めしそうな顔をしてギルフォードを見た。ギルフォードは他人事のようににっこりと笑って返した。渋々長沼間はウインドウを明けながら女性に言った。
「何かご用ですか?」
「ご用ですかじゃないわよ、いい加減にして! 友だちが怯えてるじゃない!」
その女性はもちろん由利子だった。
話は少しだけ前に戻る。
由利子は、美葉の家に近づくと電話をかけようとバッグに手をかけた。その時横の道路を真っ黒い大型バイクが走り去って行った。どこかで見たようなバイクである。バイクの主もちらりと由利子を見た。その顔を目ざとく観察した由利子は、瞬時に彼が誰か思い出した。
(あ、K署で見た変な外人だ)
そう思って由利子は彼の後ろ姿を目で追った。しかし、その姿は曲がり角に消え、すぐにエンジン音が途絶えた。近くに止ったらしい。後を追おうかと数メートル走ったが、はっと我に返って走るのを止め自嘲的に独り言を言った。
「何やってんじゃ、私は。バイク好きの小学生か!」
その時、握っていた携帯電話に着信が入った。美葉からである。
「もしもし、美葉? 今、近くに来てるの。ちょうど電話をしようと思ってたところ」
「わかっとぉよ、ここから見えるもん」
「見えるって何処にいると?」
「非常階段の最上階」
そう言われて美葉の住むマンションの方をよく見ると、端に設置された非常階段に見覚えのある姿があった。
「そりゃあ、そこからなら見えるよな」
「今、由利ちゃんの横をバイクが通ったやろ? そのバイクの人が、私を見張っている車に乗ったの。そのバイクが近くに止っているから。白い営業車みたいな地味~な車よ」
「あらま、ずいぶんと目立つ目印やね。美葉に気づかれたり、あまり張り込みの得意じゃない人かな?」
「多分普通の人なら気づかんと思う。ここら辺違法駐車多いし、あちこちで営業マンが車の中でサボって寝てるし。私は彼からそういうのの見分け方聞いていたの」
「あんたの彼氏、やっぱカタギじゃないみたいね」
「やっぱり、そう思う?」
「フツーの人が張り込みを見破るレクチャーとかするかい。でもまあ、美葉のカンが鋭いのも関係しているかもね。よしわかった。その車の中の人に文句の一つでも言って来てあげる。そこから道順を指示して」
由利子は、電話で美葉の案内を聞きながら、件の車を見つけた。
「目標確認! あとは任せて」
由利子は電話を切ると、目標の車に近づき助手席のガラス窓をノックした。ウインドウが開き、中の渋い中年男性が言った。
「何かご用ですか?」
「ご用ですかじゃないわよ、いい加減にして! 友だちが怯えてるじゃない!」
由利子は威嚇高に言った。ギルフォードは長沼間の座っている助手席のシートに手をかけて、顔を近づけながらにっこりと笑って言った。
「どうやら、僕のせいではないミタイですね」
長沼間はどーーーんと落ち込んでいた。秘書の紗弥そしてターゲット自身にすら、張り込みを察知されてしまったからだ。
(だから、カンの鋭い女はイヤなんだ・・・)
「じゃっ!」
そう言って由利子が帰りかけると、長沼間が止めた。
「ちょっと待ってくれ」
「何ですか? 私は今日、リストラ宣言されて機嫌が悪いんです。ことによっては・・・」
「それは気の毒だが、いいから待ってくれ、篠原さん」
一瞬で由利子の表情が固まった。何で私の名前を?
「やあ、驚かせてすまん。何で名前を知ってるかって顔だね。それも含めて事情を説明しよう」
長沼間は、下手に事を荒立てるより由利子を味方につけることにした。
「アレクサンダー、紹介しよう。彼女が君の言ってたブログ『ゆり根の入った茶碗蒸し』の管理人の『ゆりね子』さんだ」
ギルフォードは「おお!」と感嘆の声を上げた。
「まさに、これこそが奇遇です!運命の出会いです!」
ギルフォードの大袈裟なジェスチャーを目の前にしながら、由利子は何がなんだかわからずに狐につままれたような顔をしている。ギルフォードは、(彼にとって)せまい後部座席から脱出すると、由利子に右手を差し出して言った。
「その節はゴメイワクをおかけしました。『アレクさん大王』です」
「え"っ・・・」
由利子は何がなんだかわからない状態を通り越して、一瞬頭の中が真っ白になった。
「あなたがあの変なコメント書いていた人・・・!?」
外国人っだったのか、それならあの変な日本語も納得できる。
「こちらこそ、外国の方とは知らずに投稿禁止にしちゃってごめんなさい」
由利子はぺこりと頭を下げて言った。ギルフォードは由利子が差し出した右手を取ってくれないので、自ら彼女の両手を取りながら自己紹介をした。
「僕は、アレクサンダー・ライアン・ギルフォード。出身はイギリスです。Q大で客員教授をやっています」
(か、カルい・・・。大学教授? この人が? この外見で?)と思いながらも、肩書きに若干気後れした由利子だが、とりあえず自分も自己紹介をした。
「篠原由利子です。普通の会社員です」そう言った後、小さい声で付け加えた。「・・・今のところ」
小声の部分が聞こえたかどうかわからないが、ギルフォードは恒例の一言を付け加えた。
「僕のことは、アレクと呼んでください」
「はい、あのぉ、アレクさん?」
「『サン』は要りません。アレクと呼び捨てでイイですから」
「・・・アレク・・・でいいんですか? いや、そんなことより・・・」
実は、由利子はギルフォードが握った手を離さないので困っていた。
「いい加減手を離してくださいませんか?」
それでもニコニコして手を離そうとしないギルフォードに、由利子の眉間のしわが復活した。
「・・・アレク?」
しかし、ギルフォードは由利子が彼をアレクと呼んだことに大喜びで、長沼間たちの方を向いて言った。
「ねえ、聞いてくれました? 僕のこと、ちゃんとアレクって呼んでくれました!」
その光景を、長沼間と武邑が車中であきれて眺めていた。
「ほとんど病気だな。天才となんたらは紙一重ってね・・・。おい、そっちの方はどうだ」そう言って部下の方を見た長沼間は、彼も一緒に二人を見ていたことに気づいて言った。
「ムラ、おまえは見張っとかんか」
「あ、すみません、つい」
武邑はそう言うと、焦ってマンションの方を向いた。
「『つい』じゃねぇよ」長沼間はブツブツ言いながらこんどは由利子たちに言った。
「お前さんたちも、いつまでも手を握りあっとかないで、こっちに寄ってくれ」
「あのぉ、一方的に握られてるんですけど・・・」と、由利子。
「ああ、スミマセン、つい嬉しくて」
ようやく手を離したギルフォードに長沼間は言った。
「あんたは早く車に乗ってくれ。目立ってかなわん」
言われてギルフォードはまた狭い車中に滑り込んだ。
「・・・ったく、いつから宗旨替えをしたんだ」
長沼間はギルフォードに向かって渋い顔で言った。
「あ、知ってたんですか?」
「公安舐めてるのか? というか、隠してねーだろ、あんた」
長沼間は呆れ顔で言った。由利子はその会話を聞きながら、話が見えずにきょとんとしていたが、すぐに当初の目的を思い出して言った。
「さあ、説明してください。何故美葉を見張っているのか、何故、私の事を知っていたのか」
「わかった、説明しよう。しかし、どこで話すかな。俺たちが信じられるなら、後部座席が空いているが・・・」
そう言いながら長沼間は身分証明を出して由利子に見せた。
「公安調査官の長沼間だ。後ろの妙な奴は、気にしないでくれ。まあ、だから安心できるという保障は無いがな」
「はあ・・・」
「後ろの妙な奴だが、ああ見えて女性には人畜無害・・・いや、違うな、う~~~ん、まあ、フェミニストだから女性は安心していい。これは保障する」
「フェミちょっと違いますが・・・」
ギルフォードが言いかけると長沼間が彼の襟首を引っつかみ耳元に小声で言った。
「本当のことを言うと、女性の場合喜ばれるか引かれるかのどっちかだぞ!」
そして、また由利子に向かって言った。
「喫茶店かファミレスにいくという手もあるが、そうすると『どんたく』の花自動車より目立つこの御仁が漏れなくついて来そうだからな・・・」
「これはまた、えらい言われ方ですね」
ギルフォードは不満そうに言ったが、長沼間は無視をして続けた。
「と、いうことで、後部席に乗る勇気はあるかな、篠原さん?」
「ちょっと待って。その前に美葉に電話しときますから。さっきからあそこで様子見てるの知ってます?」
由利子はそういって非常階段を指差し、それから電話をかけ始めた。長沼間はまた落ち込んでしまった。
「電話しました。ついでに念のため、この車の車種とナンバーも伝えましたから。さて、アレク、横に座らせてもらうわ」
由利子は後部座席に乗り込むと、足を組み、ついで腕を組んで言った。
「じゃあ、お話を聞こうじゃないですか」
「ありがとう。助かったわ」
と、助手席で女が言った。
「どうしてこんな夕方に、人気の無い山道を歩いとったとですか?」
運転席の若い男が尋ねた。
「拉致されかかったところをある方に助けられたの」
「拉致? 事件じゃないですか! 警察に届けなくてよかとですか?」
「大丈夫よ。それに私にはしなければならないことが出来たの」
男は、妙なことを言うその女性をミラー越しに観察した。ちょっと歳は食っているが、いい女だ。少し影のあるところがまたいい。
「それにしても」男は言った。「助けた人ってのも、拉致されかかった女性をあんなところに放っていくやら、いい加減やねえ」
「いいの。私が自分で望んだことよ。それに・・・」
女は意味深な笑顔で言った。若い男は、少しどぎまぎして尋ねた。
「それに・・・? なんですか?」
「うふふ、おかげであなたに知り合えたわ」
「いやだなあ、会ったばっかりじゃないですかぁ」
男は、少し赤くなりながら言ったが、悪い気はしなかった。少し危険そうな女だが、楽しめそうだと思った。ヒッチハイクの女を乗せ、シルバーのランドクルーザーは、山道を駆け下り街中に向かって消えていった。
「行ったな・・・」
林道に停まっていた黒塗りの大型車の後部席に乗った男が言った。歳は30過ぎくらいで、美男だが、つかみどころの無い不思議な顔をしている。
「さて、彼女がスーパー・スプレッダー(ばら撒き屋)になり得るかどうかだが」
「問題は彼女が感染しているかどうかですが、状況からするとおそらく陽性だと思います。調べればすぐにわかったのですが」
彼の言葉に隣の女が答えた。その女は、あの時雅之の死亡を確認した自称医者だった。
「まあ、全ては神の思し召し次第さ。いつも言うようにね」
男は携帯電話を右手でもてあそびながら言った。女はそれに気づいて尋ねた。
「長兄様、それはどうされたのですか? いつも携帯電話など下衆の持つものだとおっしゃってらしたのに」
「あの母親の持ち物をちょっと失敬したのさ」
長兄と呼ばれた男は、携帯電話を開くと中身を確認して言った。
「正確には、秋山雅之・・・、あの女の息子のものだがね。ちょっとこれで悪戯をしてやろう」
男は笑いながら、電話の電源を切りさらに電池を外した上で、大事そうに上着のポケットに納めた。
美葉は、玄関のチャイムがなったので出迎えに行った。念のためドア越しに確認すると、間違いなく由利子だった。美葉は、安心して玄関のカギを開け由利子を招きいれようとドアを開けた。すると、由利子の後ろに白人の大男が現れて、親しげに「ハイ!」と手を振った。
「ごめん、おまけがついてきちゃった・・・」
由利子はバツの悪そうに言った。長沼間から体よく押し付けられたらしい。美葉は、目を丸くしながら言った。
「おまけって・・・。食玩のフィギュアみたいに存在感のあるおまけやねえ・・・」
「私は原価一円以下のラムネっすか?」
由利子は、わざと口を尖らせて不満そうに言った。美葉は、由利子が玄関に入るや否や引っ張り込むと、そのままキッチンまで引っ張っていき、小声で言った。
「誰よ、あのガイジン?」
「話すと長いことながら・・・」由利子は説明に困った。「とりあえず人畜無害らしいし、家に上げても大丈夫だと思う。日本語もペラペラだから・・・」
「日本語、大丈夫なんやね」
美葉はほっとしたように言った。
「心配なのはそれかよ!」
「あとは、犬の美月が受け入れるかだけど・・・」
美葉がそう言った端から犬の吼える声がして、犬が玄関まで駆け出してきた。
「あ~っ! ダメよ、美月!!」
美葉と由利子が慌てて玄関まで走っていくと、美月はギルフォードの足元に座って嬉しそうに尻尾を振り、頭を撫でてもらっていた。
「オ~! ミツキちゃんという名前ですか。Good girl! イイコですね~♪」
ギルフォードもとても嬉しそうだ。
「あの気難しい美月が・・・。本当に人畜無害みたいね、あの人」
美葉が信じられないという顔をして言った。
「そうみたい・・・」
由利子は驚きながらも、なんとなくギルフォードをいい人認定してしまったのだった。
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