トップページ | 2007年5月 »

予告編

※映画の予告編風に書いてみました。《 》内はト書きです。

《真っ赤な朝焼け空に男の独白》

思い出しましたぁ・・・。

私が子どもの頃・・・夏休みも終わる頃の、ことでした。

台風が近づいていて、私はなんとなく・・・ワクワクして、朝早く起きたとです。

そしたら、窓の外が異様に赤くて、私は、火事かと思って・・・驚いて、外に様子を見に行きました・・・。

外に出た私は、驚きました。

それは火事ではなくて、朝焼けやったとです。

空には台風の・・・厚い雲が、かかってましたが・・・、朝日の昇っているあたりの雲が途切れて・・・、山際から真っ赤な太陽が顔を出しとりました。

その太陽の光が、あたり一帯を赤く染めていたとです。

空も山も海も町並みも・・・。

そして私自身でさえ・・・。

あまりの不気味さに、私は怖くなって、家に戻ると布団に飛び込み、頭からタオルケットを被って震えていました。

あの時の、地獄の業火の中で悪魔が踊っているような、不気味な朝焼けの色・・・この赤さは、その時の色に似とります・・・。

朝焼色の悪魔

 《場面変わって、朝の通勤通学風景。
 《踏み切りに近い歩道。学友らしい中学生くらいの少年二人》

「勝太、さっきからすごい朝焼けやけど、雨になるんかねえ」
「朝焼け? 何言ってんだよ、雅之。青空だし、全然普通に晴れとるやん」
「だって、周り中全部真っ赤だよ?」
 《電車が近づき警報が鳴り始める》
「赤い・・・。あっ!!」
 《警報の音に触発されたかのように、雅之は急に何かに怯え始め、何者かに追いかけられるように人ごみをかき分け先に進んだ。驚いて勝太が後を追う。》
「雅之、待てって!」
「いやだ! おじさんが追いかけてくる!」
「急にどうしたとや!!」
「赤い! 赤い! ・・・怖いよ、助けて!!」
 《雅之、いきなり遮断機をかいくぐり、線路に飛び出す》
「雅之ィ!! 危ない、特急電車が来よる!!」
 《後を追おうとする勝太を止める謎の女》
「放してください! 雅之が死んでしまう!!」
「やめなさい。もう遅いわ。誰か、この子を押さえて! この子まで死んでしまうわ」
 《勝太、近くにいた会社員らしき男達に押さえられる》
「放してください! 放せってば! 放せぇ~~~~!!」
 《勝太の叫び声も空しく、雅之は電車の影に消える。軋んだ金属音とともに警笛が巨大な管楽器のように鳴り響き、鈍いブレーキ音を立てて電車が止まる。摩擦臭が漂ってくる》
「雅之! 雅之ぃぃぃぃ~~~~ッ!!」

 《場面転換。K警察署。建物から女性が出てくる》

 《玄関口で女、若い刑事に挨拶して門に向かう。門近くで、入って来た大型バイクとすれ違う。女、バイクを目で追う。男、バイクから降り、ヘルメットを取る。金髪で、細身だが身長が190近いイケメンの外国人。男は女に気付くとウインクをして、風の様に走って署に向かう。そこで、迎えに来た若い刑事を抱きしめる。刑事のうろたえる様がわかる。それを見て女、肩をすくめながら言う》
「変な外人!」

篠原由利子。人の顔に関してだけ、超常的な記憶力を持つ。職業、普通の会社員。 《37歳。身長168cm、特に美人ではないが、知的で凛々しい顔に少年っぽいスレンダーな体型》

 《場面転換。警察署内。先ほどの白人男性が、刑事らしい男と話している》

「鈴木サン。どうして、あの男と接触をしていた少年がいるコトを言ってくれなかったのですか?」

アレクサンダー・ライアン・ギルフォード。イギリス人。バイオテロの専門家として日本政府から呼ばれるも、現在何故か九州で客員教授をしている。 《40歳。身長189cm、痩身だが鍛えた体格。金髪、グリーングレイの眼。ゲイであることは公表はしていないが隠してもいない》

「彼を殺したと言って出頭してきたのは、まだ14歳の中学生でした。しかも、誰かを庇っているのではないかという様子が伺われ、慎重に対応していたのです。」
「だけどその結果、容疑者が・・・?」
 《鈴木、苦い顔をして答える》
「・・・事故で亡くなりました」
「それも、電車事故でです!」
 《ギルフォード、その後小さく「Shit!」と言って続ける》
「もし、彼が感染していて、事故の際、彼の血液がエアロゾル化して撒き散らされていたら、どうなると思います!?」

 《ギルフォード、去る》 

「係長! よかとですか? あげなとに勝手にさせとって」

多美山穰巡査部長。K署刑事一課強行犯係。 《59歳。中背で若干中年太りしているが、がっしり型の体型。性格、実直。》

「彼は司法解剖をお願いしている勝山先生の代理だ。特にこの事件は彼らの方が専門かもしれないんだ。餅は餅屋に任せよう。それに・・・」
 《と言いかけて、鈴木、言葉を濁す。多美山、すかさず尋ねる》
「それに、何ですか?」
「上の方から彼に協力しろという達しが来ているんだ」

 《場面転換》

 《取調室に少年二人と若い刑事、女性警官が座っている。刑事はギルフォードに抱きしめられてうろたえていた男》

「僕らに何か出来たでしょうか」
 《背の高い方の少年が質問する。刑事、答える》
「たらればを言っても仕方がないけど、今の話を聞く限りではおそらく雅之君を救うことは出来なかったと思うよ。ギルフォードさんの口ぶりから、彼は何かの病気だったみたいだし。って、こんなことを言っても君らへの慰めにはならないね」
 《刑事、情けない笑いを浮かべて言うが、その後、真剣な表情で続ける》
「だけど、どんな人にも歴史はあるんだよね。それに、死んでいい人間なんていないと僕は思ってる」

葛西純平。K署刑事一課強行犯係。 《29歳。身長178cm。童顔の新米刑事》

 《場面転換。住宅地》

 《部下と共に車の中でターゲットを見張っている男。運転席の部下らしき男、退屈そうに言う》
「今日で三日ですが、特に変ったところはありませんねえ。ふつうに会社と家と往復してるだけだし」
 《男、部下の判断を一蹴する》
「いや、ヤツは必ず彼女と接触を持とうとするはずだ」

長沼間内法。公安警察。 《40歳。身長173cm。顔は良い方だが、鼻の下がちと長いのが難点。痩せ狼のように貧相に見えるが、武道の達人》

 《場面展開、マンションの1室の玄関》

 《由利子ともう一人女と犬一匹が、ギルフォードを玄関先から見送っている》
「ユリコ、よかったら今度の土曜に僕の研究室に見学に来てください。これ、名刺です。電話してください。待ってます。じゃ、ネ、みなさん!」
 《ギルフォード、ばたばた走りながら帰っていく。犬、つまらなそうに寝そべる。彼の姿が見えなくなると、二人、顔を見合わせてクスリと笑う。女はっと気付いて言う》
「あ、ごはん作らなきゃ。由利ちゃん一緒に食べて帰ってね。二人の方が楽しいから」
「ありがとう。美葉の料理は美味しいから嬉しいなあ」
 《女、キッチンに向かいながら嬉しそうに言う》
「んなこと言っても、あり合わせのものしかないけんね」

多田美葉。由利子の親友。 《37歳。身長152cm。美人と言うより可愛いというタイプ。背が低いのと胸が大きすぎるのが悩みの種》

 《場面転換。Q大》

 《大学構内を歩く葛西》
 《場面変わって、とある研究室のドアをノックする葛西。軽快な足音がしてドアが開き、女性秘書が出迎える》
「K署の葛西様ですね。どうぞお入り下さい。教授がお待ちかねですわ」
 《笑顔で言い、葛西を案内する》 

鷹峰紗弥。ギルフォードの秘書。英語と日本語のバイリンガル。 《26歳。身長165cm。細身で、日本的な真っ直ぐで長い黒髪の、謎多き美女》

 《教授室。パソコンの前でギルフォード・由利子・葛西が悩んでいる》
「このメールの文章、確かに不自然ですね。改行も変だけど、簡単な漢字まで平仮名になってたりしてますよ」
 《と、葛西。その直後、由利子たちの後ろで大阪なまりの素っ頓狂な声がする》
「あれぇ~? ・・・えっと由利子さん・・・でしたっけ」
 《声の主はいつの間にか後ろに立っていた研究生の如月》
「はい、由利子ですけど、何かわかりました?」
「これ、いわゆる『ねこ大好き』やないですか?」
「え?」
 《由利子、メールを改めて見直して言う》
「ほんとだ! 何? これ、ひょっとして挑戦状?」
 《ギルフォード、不思議そうに尋ねる》
「なんですか、『ねこ大好き』って?」
 《如月、その質問に答える》
「縦読みのことですワ。英語ではアクロスティックとかいいまへんか?」
 《由利子、メールの縦読みメッセージの行頭文字を書き抜き説明する》
「声に出して読んでみます。『げ ー 無 は  は 自 ま つ て い ル 』『き み 二 こ レ が と メ ら れ ル か』。わかりました? 念のため、ちゃんと読んでみます。『ゲームは始まっている。君にこれが止められるか』」
 《由利子、ギルフォードに向かって言う》
「どう? アレク、あなたへの挑戦状みたいに思えませんか?」
「確かに、そう受け取れます・・・。でも、どうして僕宛てに・・・」
 《悩むギルフォードに葛西が言う》
「でも、彼らはあなたに挑戦してきたんです」

 《場面転換。山の中にある広大な農場》

 《男が子ども達と語らっている。子ども達、嬉しそうに男を見上げている。子ども達の一人が問う》
「長兄さまは、いつまでF支部におられるのですか?」
 《長兄と呼ばれた男、微笑みながら答える》
「そうですね、今、こちらで大事な御用がありますから、しばらくは居ますよ」
 《年長の子どもが顔を輝かせて言う》
「ではしばらくの間、僕たちは長兄さまと一緒に畑でご奉仕出来るんですね!」
 《ほかの子らも喜んで歓声を上げる》
「わ~い」
 《子ども達の反応に、長兄は満足げに笑って言う》
「ではお手伝いのご褒美に、たくさん美味しい野菜を持って帰ってくださいね」
「はい!」
「はぁい!」
「ありがとうございまぁす!」
 《子ども達、口々に長兄にお礼を言い、ジャガイモの入ったかごを所定の場所に持って行く。その後母親達の元に走って行く。長兄はそれを見ながら笑顔で立ち上がり、背伸びをする。天気はすこぶる良い。長兄、遠くに女の姿を見つける》

 《長兄と女、教団の前庭にある縁台に腰掛けて話している。その女は踏み切りで勝太が雅之の後を追うのを止めた女で、防護メガネとマスクをつけている。長兄、女に向かって冷ややかに言う》
「さて、ここ40年で人口は一体どれくらい増えた?30億から70億、倍以上だ。何故人が増えたか? それは、人が死ななくなったからだ。かつて感染症は死因のトップだった。しかし、公衆衛生やワクチン・抗生剤の発達から、死因は癌や脳卒中、心臓麻痺などの、老衰によるものが上位を占めるようになった。
 環境破壊の原因は、人口の増加だ。今問題の地球温暖化はその結果にすぎない。我々の目的は、効率的な人類の間引き。エイズのように発症まで何年もかかるものではなく、インフルエンザのように一過性ではなく、永遠の人類の天敵として、『捕食者』として、アンドロメダウイルスのような強力な病原体をばら撒き、人類を減らし穢れた大地を浄化する。それこそが、我が神の思し召しだ。君もそれは理解しているはずだが」
「はい、もちろんです。でも・・・」
「では、遥音先生、要らぬ事に頭を悩ませずに研究室に戻り、新たなる展開に備えて研究を続けたまえ」

長兄(皇 祥護)。 碧珠善心教教主。 《34歳。身長172cm。痩身、細面の美男子。外面如菩薩内面如夜叉》

 《長兄、そう言い放つと、席を立ちその場を去る。呆然としながら縁台に座っている女》

遥音涼子。 碧珠善心教会付属の病院のウイルス学者。 《36歳。身長158cm、中肉中背。美人だが、暗い影がある。外出時、マスクと防護メガネが手放せない)

 《場面転換。とある公園》

 《少年二人の前に、女が一人立っている。見守るように、刑事二人とと女性警官。女、顔色悪く、いかにも具合が悪そうな風情》
「もう疲れた、わ・・・。もう、痛みも・・・ない・・・体が鉛・・・よう・・・」
 《女、ふうっとため息をつく》
「だから、もうお仕舞い・・・。ここで・・・らせるわ・・・」
 《女、少年の方に向かい、ゆっくりとナイフを持つ右手をかざす。多美山、叫ぶ》
「いかん! ジュンペイ、行けぇっ!!」
 《合図と共に、葛西、少年たちの方へ猛然と走る。呆然とする少年の前にもう一人の小柄な少年が立ち、盾になろうとする。葛西、飛びかかって二人を抱き、その上に伏せる。葛西、多美山のほうを見る。多美山、女を止めようとするが、彼女がいきなり返した切っ先が指先を走る。女、笑いながら刃を自分の喉に向ける。止むを得ず女の前に仁王立ちになった多美山の後姿越しに血しぶきが上がる。葛西、絶叫する》
「多美さぁんッ!!」

 《絶叫がエコーしながらフェイドアウト。場面変わる》

 《元彼に捕らえられた美葉、車の中で拘束されている。男、得意げに話す》
「この前、浮浪者が4・5人ほど公園で死んだ事件があっただろ? あれは僕がやったのさ」
 《美葉、目を大きく見開いて驚く》
「うそ・・・」
「残念ながら本当だよ。僕は、あの方に言われたとおりにウイルスを撒いたんだ。あの目障りで薄汚い浮浪者たちを掃除するために」
 《美葉、男の言っていることが飲み込めずに訊く》
「どういうこと? それにあの方って?」
「あの方・・・、偉大なる長兄さまだよ。この地球の救世主様だ。ウイルスで、人間を環境破壊させないレベルまで減らすんだよ。そして、選ばれた人間だけが生き残れるんだ」 

結城 俊。テロ組織『タナトスの大地』構成員。テロ実行犯。 《43歳。身長178cm。元は健康的な体格だったが、日常的に使う非合法の薬物のため、病的に痩せ始め、性格も荒みつつある》

 《場面転換》 

 《感染症対策センター内、シャワー室。ギルフォード、シャワー室の壁に両手をつき、がっくりと下を向いている》
”よかった・・・”
 《彼の口から弱弱しい言葉が漏れる》
”イヤだ・・・、あの時のように死ぬ思いは・・・。シンイチ、君と約束したのに・・・、本当は怖いんだ、俺は・・・。無様・・・だな・・・”

 《画面引く。激しいシャワーの音に紛れて、嗚咽する声がかすかに聞こえる。ギルフォード、その状態のままじっと動かない》 

 《オーバーラップしつつ、場面転換》

 《C川河川敷。若者達がパニックになっている。若者の一人が、橋台下にあるホームレスの掘っ立て小屋を乱暴にノックする。横で女性がそれを止めようとする。そこで、小屋の戸口が崩れ落ち、もうもうと土煙が立つ。それを避けうずくまった女性、ようやく顔を上げる。小屋の中に目をやった女性、悲鳴を上げる。中に無残に体表を食われた男の死体が転がり、その上に、異様にでかい虫が数匹乗り、赤く光る目をちろちろさせていた。

 《場面転換》

 《夜のギルフォード研究室。ギルフォードが緊迫した様子で携帯電話をかけている》
「ユリコ! どうしました? 返事をしてください!!」
 《電話の向こうに呼びかけているギルフォードの傍に、細身で長身の黒人青年がコーヒーを手にして近寄ってくる》
「アレックス、彼女にネットとの接続を切るようにゆーてちょーよ」
「ユリコ! ネットから接続を切ってください。ジュン! そこにいますか? ジュン!!」
 《その様子を見て紗弥が青年に尋ねる》
「何があったんですの?」
 《青年、答える》
「由利子さんが開いたCD-Rに、不正プログラムが入っとるみてゃーだわ」

ジュリアス・アーサー・キング。アメリカ人。米国H大講師で専門はウイルス学。 《34歳。身長182cm、一見華奢に見えるが、フィールドで鍛えられているので意外と頑丈な体格。ブルーアイズ。日本語は堪能だが、何故か名古屋弁。ギルフォードのパートナーで、兄はCDCの研究員》

 《由利子のパソコンのモニター画面が不吉なブルースクリーンになり左上端から白い文字で「Thanatos」という文字がズラズラと高速で流れ始める。葛西、報告する》
「男の画像が消えて、ブルースクリーンに”Thanatos”という文字が次々と出て来て画面を埋めています」
「画像が消えて、青い画面に文字がどんどん出ているらしいですよ」
 《ギルフォード、ジュリアスに説明する。ジュリアスは額に手を当てながら答える》
「そりゃあまずいがね。電源を落とした方がええて」
 《ギルフォード、すぐにジュリアスのアドバイスを伝える》
「ジュン! 強制終了して下さい」
 《ジュリアス、その様子を見ながら手に持ったコーヒーを一口すすって言う》
「まあ、もうおせーかもしれにゃーもんだで、いっそどうなるかあんばいを見るって言うのはどうかねー」
「馬鹿言わないでください」
 《ギルフォード、あきれ気味に言う》
「後でユリコから殺されますよ」

 《場面転換》

 《葛西、隔離病室のガラス窓にすがって取り乱しながら泣いている。ギルフォード、葛西に近づく》
「落ち着きなさい、ジュン!」
 《静かだが鋭い声と共に、ギルフォード、葛西の頬を打つ。ぱん!という乾いた音。》
「見なさい! これが、テロリストのしでかしたことです」
 《ギルフォード、葛西の襟首を掴み、無理やり病室の方に彼の顔を向けて言う》
「目に焼き付けておきなさい、タミヤマさんの姿を・・・! 僕たちの・・・、君の戦う敵は、人に対してこんな残酷な仕打ちをするウイルスを、平気でばら撒くことが出来る連中なんです。彼らはウイルスを操作し培養出来る能力と、それを躊躇せず使用出来る冷酷さを持っているんです」

 《場面転換》

 《テレビの画面。記者会見のような場面。記者、質問する》
「知事、あの、ウイルス発生があまりにも突飛だと思えるのですが、これは人の手で撒かれたという可能性はないのですか?」
 《知事、質問の内容を確認する》
「人の手で撒かれたと言うと?」
「はい。ベタですが、バイオハザード・・・。例えばどこかの研究所から漏れたとか、テロとか・・・」
「どこかからウイルスが漏れたということについては、どこのウイルスを扱う機関からもそういう報告は受けておりません。が、それ以前に、まったくの新種で、しかもⅠ類に相当する危険なウイルスを扱っている機関は、日本中どこにもありません。それからテロに関してですが、もしテロなら実行前かそのあと、或いは両方に何らかのメッセージが発せられるはずですが、今のところ、何のアクションもありません」
 《知事、一息つく》
「ただし」
 《森の内、さらに続ける》
「テロは許される行為ではありません。もし、これがバイオテロだった場合、私たちは断固として戦い、かならずそれを封じ込めます」

森の内誠。 F県知事。 《60歳。中背だが若干太り気味。ちょっとエキセントリックな面もあるが、県政は真摯である》

 《テレビの画面を見つめながら、一瞬ゾッとするような笑みを浮かべる長兄こと祥護。だが、すぐにそれはいつもの魅力的な笑顔に変わる》

 《場面転換》

 《夕方の駅。人ごみの中をフラフラ歩いていた男、倒れ、苦しみ始める。その周囲から人の波が引き、あち こちで悲鳴が上がる。男は血を吐きながらのたうち、最後に弓なりにひきつけて絶命した。倒れた男の身体の周囲にじわじわと血だまりが広がっていく。倒れた男の近くにいた会社員らしき男、目の周囲を拭い、その手を見る。掌に少量の血がついている。駅周辺にパトカーや消防車・救急車が集まり、防護服を着た男たちがホームへの階段を駆け上がっていく。

 《オーバーラップして、冒頭の朝焼けに戻る》
 

 一人の男の妄想と野望から、未曾有のウイルステロが始まった。勝つのは人類かウイルスか。

 笑いと涙、感動と恐怖、そしてこっそりと子ネタが贅沢に詰まった、一部限定で話題のご当地バイオテロ小説、密かに絶賛連載中!!

|

この小説について

作者のなけなしの知識と崖っぷち状況で書く小説のブログ。
バイオテロ小説「朝焼色の悪魔」連載中。
CM動画・音に注意。PCのみ閲覧可)

注意:ごくたまに濡れ場はありますが、官 能 小説ではありません。しいて言えば感染小説・・・。

「Heaven or Hell 小説館」へようこそお越し下さいました。ご来訪どうもありがとうございます。
※この小説はR18指定です。時に残酷描写があります。また、まれにR18シーンがあります。ご了承ください(その場合、目次のサブタイトルに警告しています)。主役の一人がゲイのために、そういうシーンもたまにあります。苦手な方は、相手を女性に脳内変換してお読みください。 

 予告編 ←注:ダイジェスト版でもあるので、ある程度ストーリーの流れがわかります。純粋にストーリーを追いたいという方は、最新版まで読まれた後でお読みになったほうが楽しめると思います。

 必読事項はここまでです。→小説目次へ。 ご面倒でなければ続き↓をお読みください。

続きを読む "この小説について"

| | コメント (0)

登場人物紹介

◇メインキャラクター◇

  Yuriko2 ■篠原 由利子

 普通の会社員だったのだが、ひょんなことからウイルステロに巻き込まれる。一度見た顔は忘れないと言う特殊能力(?)を持つ(意識せずぼうっと見ていた場合を除く)。それに関しては名前や住所・電話番号などの情報もあればそれも一緒に記憶できるので、「人間住所録」「デスノートを一番持たせたくない人物」などと呼ばれたこともある。
 にゃにゃ子とはるさめという猫を2匹を飼っている。
 因みに佛教大の教授とは別人。

  Guildford2■アレクサンダー・ライアン・ギルフォード 
     (Alexander Ryan Guildford)

 イギリス人。8月で41歳になる。アメリカの大学で主にウイルス学と公衆衛生について学ぶ。WHOの依頼でアフリカの出血熱のアウトブレイク対策に何度か参加したことがある。
 バイオテロに詳しいということで、相談役として日本政府に招かれた筈が、何故か九州の大学の教授をやっている。日本語が堪能で、そのため口が災いしたらしい。日本語は上品だが英語になると途端に品位が下がる。
 実はゲイである事は公表してはいないが、隠してもいない。
 放生会ですくった金魚3匹を研究室で飼っている。名前はネプチューナとピピとミューティオ。誰がつけたんじゃ。
 弱点は、人の顔を覚えられないのと、とある昆虫2種。
 ハーレーダヴィッドソンや、変な和物デザインのTシャツを着ていることが多い。基本着る物には無頓着だが、ビシッと決めた時はイケメンの本領を発揮する。
 想像を絶する様なひどい目に何度も遭っているので人の苦しみをよく理解しフォローも万全だが、上流階級の出身なので時折金銭面には無頓着な面を見せる。

 ギルフォードという名字は、ストラングラーズの初期名称、ギルフォード・ストラングラーズからいただきました。

愛車:ハーレーダビットソンVRSCDXナイトロッドスペシャル
(ボディカラーはブラックデニム&HDオレンジレーシングストライプ。黒いヤツね)

  Jun2■葛西(かさい)純平

 K警察署 刑事一課強行犯係。巡査改め巡査部長(特進)。
大学で微生物学(ただし、専攻は発酵)を学んでいたため、特設のバイオテロ対策課に配置換えさせられる(栄転?)。29歳(もうすぐ30歳らしい)。
 人柄が良いためほとんどの人に好意を持たれるが、階級を特進したために、一部の警官から妬まれるという憂き目に遭う。
 癒し系。一見優しくてひ弱そうだが、いざと言う時は底力を見せる。
 世代が違うが叔父の影響で何故かウルトラQフリーク。最近はメガネ(コンタクトレンズ紛失後)と天然キャラのためか、意外と読者ウケしているらしい。

◇主要サブキャラクター◇

【日本】

  ■多田 美葉

 由利子の親友。由利子曰く「子供の頃からのクサレ縁」。ペットに美月という犬(♀)を1匹飼っている。
 童顔にFカップと萌えキャラ要素は充分で、か弱そうに見えるが、実は合気道の有段者である。現在過酷な状況に居るが、なんとかそれから脱しようとする希望は捨てていない。

  Photo_3 ■長沼間 内法(「ナイキ」ではなく「ウチノリ」)

 ギルフォードの授業の聴講生で実は公安警察官(表向きは警備部公安第二課所属だが、別命で動いている様子あり)。ギルフォードと同年生まれで41歳。
 見かけに寄らず拳法の達人で、紗弥と互角以上の実力。いつもは髪をセットしているが、戦闘中乱れて前髪が降り、若返って見える。強面の渋いオッサンだが、鼻の下が長いのが難点。
 美葉の彼氏をマークするために美葉だけでなく由利子の身元まで調べ上げる。やり方は強引だが、それはテロを憎む故の行動。過去に何かあったらしい。
 現在天涯孤独の身である。
(元ネタは、「ワッハマン」の長沼内規→イラスト参照)

  ■鷹峰 紗弥(たかみね さや)

 ギルフォードの秘書。というか手綱取りに近い存在。あるいは掛け合い漫才のツッコミ方? 妙に浮世離れしたところがある。
 ただならぬ過去があるらしいが、本編とは関係ないので明らかにされるかどうか疑わしい。

愛車:ドゥカティ MONSTER696

【米国】

  ■ジュリアス・アーサー・キング

 アメリカH大学のウイルス学者。ギルフォードのパートナーで、ギルフォードも彼には頭が上がらないようだ。葛西にライバル心を持つが、当の葛西はいたって平常心(わかっていないので)である。後にある作戦で行動を共にし、仲良くなる。
 日本語は堪能だが、何故か名古屋弁。愛称はジュリー。
 変わった名前なので、フルネームで呼ばれることを極端に嫌がる。

  ■クリス(クリスタル)・レッド・キング

 ジュリアスの兄。CDCの研究員で、ギルフォードが送ったインフルエンザウイルスの仕掛けに最初に気付く。
 愛称はクリス。兄弟揃って冗談みたいな名前である。

《サブキャラクター》

【警察】

  ■多美山 穰(たみやまのぼる)

 K警察署 刑事一課 強行犯係 主任 巡査部長
 座右の銘 「一生一刑事」

  ■鈴木 恭一

 K警察署 刑事一課 強行犯係 係長 警部補

  ■堤 みどり(旧姓 鮎川)

 K警察署 少年課 巡査
 葛西とは同年代。顔は可愛いがけっこう物事をはっきり言う。既婚。やや腐女子の傾向あり。

  ■松樹 杏士郎

 F県警 暴力団対策部  警視正
 ギルフォードの大学の先輩。彼の祖父は某所のお偉いサンで、ギルフォードの就職先(?)を世話したらしい。
 (元ネタは、「たいした問題じゃない」のマッキアン警部。頬に傷はあるが眼帯はしていない)

  ■早瀬 弓狩(ユカリ)

 警部。 刑事部と警備部(公安)で構成されたサイキウイルス対策部隊通称SV対の隊長。長身の宮崎アニメ戦闘型美人。

  ■富田林 博史(とんだばやしひろし)

 巡査部長。F県警のマスコット「ふっけい君」に似ている。既婚者で一児(娘)の父。SV対に配属される。トンさんと呼ばれるのを嫌っている。

  ■増岡 宗一郎

 巡査。富田林の相方。

【行政】

  ■森之内 誠

 就任約一年のF県知事。無所属。タレント出身だが大胆な政策を打ち出し、時に周りから反発を受けるが県民には人気がある。ギルフォードを信頼している。

【医療関係】

  ■高柳 輝(あきら) 

 感染症対策センター(通称IMC)のセンター長。常に沈着冷静で、何事にも動じない男。俳優の故・平田昭彦に似た渋い外見だが、意外とひょうきんな人物である。ギルフォードを煙に巻くことが出来る数少ない人物の一人。
(IMC内に園山と言う看護師がいるのは偶然。ハングマンは見てなかったもんで・・・;)

  ■勝山 秀幸

 K大法医学教授。ギルフォードとは旧知らしい。名前を考えていたら、たまたまテレビにムーディー勝山が出ていたので安直に勝山に決まった。

  ■山田 正造

 山田内科医院もと院長。今は息子に医院を任せている。通称大先生。

  ■山田 昭雄

 山田医院の院長。通称若先生。

  ■園山 修二

 IMCの主任看護師。

【自衛隊】

  ■紫藤逸美

 陸上自衛隊第4化学防護隊所属。サイキウイルス対策特殊部隊の隊長。由利子の幼馴染で子供の頃起きた美葉誘拐事件では由利子たちと共に活躍?した。

【米軍】

  ■ヴァイオレット・ブルーム(Violet Bloom)

 米国海兵隊 CBIRF(Chemical Biological Incident Response Force:シーバーフ)サイキウイルス制圧実行部隊(オペレーション・アカツキ)隊長。少尉。ウイルスを自衛隊と共同で制圧するために来日した。
 ギルフォードの親友、エメラルダ(ジュリーはエマールダと発音)・ブルームの姉。愛称はヴァイ。長身で軍人らしくいかついが胸は大きい。葛西曰く「永井豪の描く女性みたいだ」。もともと短い金髪だが、プライベートでは長い赤毛のウイッグをつけることが多い(刈り上げ短髪だと男にしか見えないかららしいが、赤毛は単に好みらしい)。
 日本語は堪能で流暢だが、葛西いわく頑固爺。しかし標準的日本語を話そうとすると、何故かいきなりカタコト交じりになってしまう。
 ギルフォードと紗弥とは旧知であるらしく、特に紗弥とは再会がてらに荒っぽい挨拶をするほど。ギルフォードのことは、英語発音に則りアレグザンダーと呼ぶ。
 由利子たちに「すみれちゃんって呼んでおくれ」というが、ギルフォードからは「虫取りスミレ」と揶揄される。
 ギルフォードは彼女をある程度信頼しつつ、米兵であるため敵か味方か判断できず、警戒する。

【謎の教団『碧珠善心教会』と秘密結社『タナトスの大地』】

※『タナトスの大地』は、新興宗教『碧珠善心教会』の教主『長兄』率いるテロ組織である。母体の教団については作者もまだよく知らない。

  ■『長兄さま』:白王 清護(すめらぎしょうご)(本名:皇 翔悟(読みは同じ))  

 謎の教団教主にして、テロ組織の長。イケメンということだけが何故か有名で、教団には最近入心(入信)した女性信者が多い。秋山美千代もその中の一人だった。しかし、何故か表舞台には一切姿を現さず、撮影もNG。但し、講演会を頻繁に行い、そこで新しい信者を得ているらしい。
 都築 翔悟(つづき しょうご)と名乗る時もある。

  ■遥音 涼子(謎の女医)はるね

 雅之に病気について忠告する。自称『長兄』率いる謎の宗教団体に属するウイルス学者。長兄に疑問を持ち始めている。本名は結城涼子。

  ■結城 俊

 美葉の彼氏。潜伏中のテロリスト。仲間にも追われているらしい。教団には属さず秘密結社の方に直接入社した。美葉には結婚していることを隠していた。妻は遥音涼子。

  ■降屋 裕己(ふるやひろき)

 本名は山上 正。組織では「グングニル(オーディンの持つ槍)」と呼ばれる。
 一見好青年だが。、熱烈な信者であり長兄にかなり傾倒している。長兄の命を受けて、極美に近づく。

  ■月辺 洋三(げつべ ようぞう)

 教団「璧珠善心協会」と秘密結社「タナトスの大地」両方のブレーンを務める。
 頭が良く冷徹で情け容赦ない男。高い知能を持つが、反面、長兄を絶対者と考え盲信している。子供の頃会った事故で少し身体が不自由で、彼の行動はそれに対するルサンチマンの表れであろう。
 元ネタは、名前からわかるようにナチのあの人。

  ■月辺 城生(じょう)

 洋三の息子。祐一たちのクラスに編入する。  

【一般の人々】

  ■都築 守里生(つづき もりお)

 碧珠善心教会『長兄』こと皇翔悟の腹違いの兄。
 宗教がかった夫を嫌って別れた先妻の息子であり、一時期訳有りで翔悟を引き取った母と3人で暮らしていたこともあるらしい。教団とはまったく関わっていないのに、弟(『長兄』)にちょっかいを出されるかわいそうな人。それでも、弟を溺愛しているので話はややこしい。
 「ばら撒き屋」になった美千代を助けるが、それも翔悟のたくらみであった。翔悟が自分を『長兄』と呼ばせるのも、なにか兄に対するコンプレックスがあるようだ。

  ■黒岩 るい子

 由利子の同僚。寡婦で中学生の娘と二人暮らしらしい。

  ■秋山家■

   ◇雅之

 中学3年生。仲間に囃されて一人ホームレス狩りを実行するが・・・。

   ◇美千代

 雅之の母。通称「ぶってママ」。雅之の死後、暴走をはじめる。

   ◇信之

 雅之の父。大阪に単身赴任していたが・・・。この小説内で最も不幸な男。

   ◇珠江

 雅之の祖母。別居。雅之のシャツから感染する。

   ◇村田 聡子

 信之の姉。和服の似合う美人。既婚。

   ◇多佳子

 信之の妹。聡子とは対照的な性格で、行動派のキャリアウーマン。

  ■西原家■

   ◇祐一

 長男。雅之の友人。級友。雅之のホームレス狩りを止めようとしたため、巻き込まれる。

   ◇香菜

 祐一の妹。おにいちゃん大好きっ子。

   ◇慎也

 祐一の父。控えめだがいざというとき頼りになる。

   ◇真理子

 祐一の母。息子を信頼している。年上女房。

  ■佐々木 良夫

 祐一の友人。級友。祐一が心配で付いて行き、陰惨な場面を目撃したために寝込んでしまう。小柄で可愛い顔をしているため、女々しいと思われがちだが、祐一が危険なとき前に立ちはだかるほどの勇気を持つ。

  ■錦織 彩夏(にしきおり あやか)

 祐一の級友。委員長。祐一に好意を持っているらしい。ツインテールの似合う可愛いツンデレ。

  ■田村 勝太

 雅之の遊び仲間。祐一の級友。中背でちょっとだけ太り気味。最近メガネからコンタクトに変えた。色気づいたか?

  ■安田 圭介

 公園で雅之に襲われたあと死亡した元ゲームクリエイターのホームレス。謎の病気に感染していた。

  ■如月 光

 ギルフォード研究室の研究生で、リーダー的存在。大阪弁。

  ■真樹村 極美(まきむら きわみ)

 もとグラビアアイドルの駆け出しジャーナリスト。

  ■豊島家■

   ◇恵実子

 主婦。

   ◇悟志

 恵実子の夫。公務員。

   ◇志帆海(しほみ)

 長女。大学を出た後、就職して東京に行ったばかり。

   ◇裕海(ゆみ)

 次女。大学1年。

   ◇輝海(あきみ)

 長男。小学2年生。

  ■多美山家■

   ◇幸雄

 多美山刑事の長男。父親に反発して後を継がず、サラリーマンの道を選ぶ。

   ◇梢(こずえ)

 幸雄の妻。

   ◇桜子

 長女。幼稚園年長組。おじいちゃん子で、将来は刑事志望。

   ◇谷 楓(かえで)

 梢の母。

  ■小石川 晴希

 獣医師。偉丈夫。通称「春風動物病院の熊先生」。20歳歳下の小柄な奥さんがいる。ロリ疑惑あり。

  ■小石川 舞衣

 晴希の妻。小柄で顔も可愛くアニメ声だが、腐女子。従ってギルフォードを非常に気に入っている。ギルフォード以上に抱きつき魔だが、女性ゆえに大目に見られている。

  ■森田 健二

 某ポン大生。美千代と関係を持ったために、感染。女性にだらしない性格のため、感染を広げる。

  ■北山 紅美

 健二の彼女。健二とは同じ学部で、同じ2回生。焼きもち焼きだが献身的な女性。

  ■窪田 栄太郎

 F県内地場企業の課長。部下の女性を車で送る途中に誤って健二を轢いて死なせてしまい、飲酒及び部下との不倫の発覚を恐れて遺体を遺棄する。

  ■笹川 歌恋

 窪田の部下で愛人。見かけの派手さと相反して真面目な女性で有能な部下でもある。

以下順次追加予定。 

| | コメント (0)

目次

 ★注意★
 マークは、残酷な表現があります。また、性的表現や過度な暴力描写がある話には念のため(R18)をつけています(人によって感受性が違いますので、ある程度のレベルで表示しています)。注意して読んでね)。 マークは同性愛的表現アリ(そんなにハードではありませんが)
 なお、リアルでテロを起こした某カルトですが、イニシャルは正しくはAですが、日本語に合わせて「O教団」と表記しています。なお、コメントはトップページからどうぞ。
         →この小説のトップページ

 なお、ここでは日本のレベル4実験室は稼働していないと書いていますが、2014年エボラ出血熱パンデミックを機に稼働したもようです。

登場人物紹介
 
【プロローグ】
【第一部】 
1.序章 
(1)インフルエンザA (2)近況報告 (3)一粒の種から
2.胎動
(序)黒い河面★ (1)ニュース (2)コンコース (3)少年A (4)公園の男★ (5)友情・・・ (6)平穏の終わり
3.潜伏
(1)歪んだ朝 (2)関わり (3)水面下 (4)プロフェッサー (5)家族の絆 (6)山田医院
4.拡散
(1)迫り来る悪夢★ (2)法医学教室 (3)誰そ彼~たそがれ~ (4)エンジェルズ・トランペット★ (5)少年たちとギルフォード (6)蠢く~うごめく~
5.出現
(序)一類感染症 (1)由利子とギルフォード  (2)月と葉、そして夜 (3)誘う女 (4)神は疫病に関わらず (5)スパム (6)アクロスティック (7)間~はざま~
6.暴走
(1)心の闇 (2)シニスター~不吉~ (3)クリミナル (4)イレギュラー (5)少年探偵団 (6)赤い情念★ (7)軋む歯車★ (8)キープ・オン・ウォーキング
【第二部】
1.侵蝕Ⅰ
(幕間)豊島家、ある夜の話 (1)悪夢の明けた朝 (2)新たなる旅立ち (3)広がる染み (4)カサイ・レポート★ (5)親子刑事 (幕間2)帰り道
2.侵蝕Ⅱ
(1)インターバル  (2)ギルフォード教授の野外講義 前半 (3)ギルフォード教授の野外講義 後半★ (4)テロと生物兵器 (5)赤い暗雲★ (6)七匹の子ヤギ (7)キッドナップ
■3.侵蝕Ⅲ
(1)愛憎~The man she loves to hate(R18) (2)リーグ~同盟~ (3)シンフル・ラヴ~Sinful love (4)悪夢再び (5)トラップ★ (6)知事の決断 (7)息子ふたり★ (8)預かり物の正体 (9)刈り取る者
■4.衝撃
(1)Pox ~ポックス~ (2)交錯する想い (3)桜子とギルフォード (4)涙色の笑顔 (5)悲しいワルツ (6)新たな誓い (7)現の悪夢、来たるべく悪夢、過去の悪夢(R18)☆ 
■5.告知

(1)碧珠善心教会 (2)間引き (3)秋山家にて (4)告知前 (5)ルビコン (6)ヤクタ・アーレア・エスト (7)ナガヌマ (7’)背徳者(R18) (8)妹
【第三部】
■1.暴露

(1)儚い夢 (2)引き潮 (3)タイド・ウェイ(4)血染めの紙~The bloody will (5)シンボル  (6)ふたつの薔薇 (7)報道番組 NS10 (8)コンスピラシー (9)メガローチ・エフェクト (10)香草狂詩曲(ハーバル・ラプソディ) 【幕間】花屋と長沼間
■2.焔心
(1)初音の災難 (2)禍つ兆し (3)アレックス~前編~ (4)アレックス~中篇~ (R18) (5)アレックス~後編~ (R18) (6)虚構の創造 (7)現実の火種、妄想の火種 【番外】(ちょっとティータイム)聖ヴァレンタインズ・ディの思い出 (8)ダディズ・クライ (9)ブルー・フレイム~沈黙の怒り (10)記憶の欠片(かけら) (11)運命の輪~Hate to Fate  【幕間】由利子のブログより 
■3.暗雲
(1)ジュリアスとアレクサンダー☆ (2)逃亡者☆ (3)フールズ・ラッシュ・アウト (4)二人目のマリオネット (5)道化師の恋★ (6)すれ違う心、結びつく心 (7)由利子 (8)ハイ・アンド・ロー(9)ビジーディ
■4.乱麻

(1)ある少女の死 (2)告白の波紋  (3)罪と報い (4)シンプル・ゲーム (5)サヴァイヴァーズ (6)ルーモア 
■5.微光
(1)謎の転校生 (2)ヴァイオレット (3)アップステージ (4)インフォーマー (5)コントラディクション (6)カルト・ア・ラ・カルト (7)天国を売る男 (8)小さな幸せ (9)Dead or arive
【第四部】
■1.攪乱

【幕間】声 (1)希望の命名 (2)レッド・ダムネイション★ (3)プロジェクト・プレイグ  (4)レッド・へリング (5)無症候性キャリア  (6)シロジズム (7)バイ=ブロウ(By-blow) (8)はばたく悪夢  (9)フライデー・ナイト・フィーバー 【幕間】ふたりの今泉 
■2.疾走
(1)SNS (2)夕日への祈り (3)ターゲット (4)ヤヌス (5)ディテクティヴ (6)フェアウェル (7)夏祭り勇壮に 【幕間】ある夏の夜のこと
■3.暗転
(1)ブルー・クライシス (2)ロスト・コントロール (3)朱の駅 (4)怒りと慟哭のゼロ★ (5)付きつけられた現実 (6)沈黙の行進
■4.翻弄
【幕間】その朝
(1)分岐点  (2)緋色の不安 (3)潔癖の棲家 (4)ジュリアス (5)冷たい雨  (6)サクリファイス (7)グッバイ・ブ
ルースカイ (8)仲間と相棒と 
【第五部】
■1.禍神(マガカミ) 

【幕間】ウイルス・ジャーニー  (2020年9月14日UP)

 

|

トップページ

「Heaven or Hell 小説館」にようこそ。  
 九州の地方都市で謎のホームレス集団死が発生、それに関わった少年が虫が炎に飛び込むように自ら命を絶った。彼らが死ぬ前に言った共通の言葉は「アカイ」。それは、ある男の野望の下に仕掛けられた、バイオテロの始まりであった・・・。 


 笑いと涙と恐怖、そしてトンデモや特撮などの小ネタと盛り沢山でお届けする『ご当地』バイオテロ小説です。ごく、たま~に18禁表現がありますし、かなり残酷表現もありますので、18歳以下の方はご遠慮ください。

  この話はフィクションです。
       登場人物・団体等すべて仮想世界のものです。
   リアル世界で同じ名称の団体等も、仮想世界にあります。
   出てくる学校関連も実在するものではありません。
    (因みにQ大は九大とは別の架空の大学です)。

はじめに■ (←初めての方は、必ずここをお読みください) 
総目次  (小説読み始めはここから)
 試し読みでどうぞ→プロローグ

 アルファポリス(PC・ケイタイ対応)→

(初めての方はこちらへ。加筆修正版(なろう版)はこちらです)

最新
第5部 1.禍神 【幕間】ウイルス・ジャーニー
」です。(2020年9月14日UP) 

 第4部終了です。次回から第5部発進。たぶん、この部で最終になる予定です。
 長い間、更新が滞って申し訳ありません。しかも、現実世界でCOVID-19(サーズ-2)パンデミックが起こり、非常に先が書きづらい状況になってしまいました。目標にしていたオリンピックの開催も危ぶまれています。
 今、どれだけ読者がいるかわかりませんが、最後の読者(自分)のためにもめげずに書いていきたいと思います。


 ☆「小説家になろう」さんに完成版(加筆修正分)を順次アップしていくことにしました。こちらが連載版で「なろう」さんの方が単行本版のようなものと思ってください。→「なろう」版『朝焼色の悪魔
 最初から読まれる場合は、途中までこちらで読まれた方がいいと思います。

 感想をお待ちしております。ここのコメント欄か、掲示板にどうぞ。必ずお返事いたします。
 コメント欄でのこの小説と無関係と思われるものは削除させていただきます。ご了承ください。掲示板か「つーしん」の方へどうぞ。スパムはお断りします。

 アンケートもよろしく! アンケート(簡易版)。 通常アンケートはこちら

◎現在進行中のCOVID-19(新型コロナウイルスSARS-Cov-2)パンデミックについて
 この小説はパラレルワールドですので、今のところ起きていない世界です。リアルウイルス禍がおさまってから考えます。何年かかるかわかりませんが(この小説も)。しかし、10年以上も書いているといろんなことがあるなあ。
 

★日本のレヴェル4実験室は、エボラの世界的流行を受けて動き出した模様。(完成版で修正していきます)

 ******* 

テーマ曲:ブレス・ユー(ストラングラーズ)
 シフトを押しながらクリックすると別窓で立ち上がるので、BGMにすることが出来ます。すごくドラマチックな名曲です。是非、聴いてみてください。
 因みにエンディング・テーマはこれ。Relentless。教授がバイクに乗って走っている時のBGMにも。

★あなたのクリックでランクアップします。どうぞよろしく。
 アルファポリス(PC・ケイタイ対応→

 日本ブログ村ランキング(PCのみ対応)→にほんブログ村 小説ブログ ミステリー・推理小説へ ←圏外に落ちてました。ぽちっとレスキューよろしく。m(_ _)m 
 この小説のCM (YOUTUBE版) ←クリック(内容紹介です)

 ギルフォード教授シリーズ巨大生物編はこちら ←クリック(未完結)

予告編 ←注:ダイジェスト版でもあるので、ある程度ストーリーの流れがわかります。純粋にストーリーを追いたいという方は、最新版まで読まれた後でお読みになったほうが楽しめると思います。 

 ※ 「部」に分けました。

    プロローグ(了)
    第一部(了)
    第二部(了)
    第三部
    第四部
    第五部(第1章開始)

◆おねがい◆
  トラックバックはこのページに、コメントはこのページか「はじめに」のページにお願いします。

  この話はフィクションです。
       登場人物・団体等すべて仮想世界のものです。
   リアル世界で同じ名称の団体等も、仮想世界にあります。
   出てくる学校関連も実在するものではありません。
    (因みにQ大は九大とは別の架空の大学です)。

【この新型ウイルスによる現在までの死亡者数】

 総数 32 (但し、潜在死亡者数を入れるともう少し数が増えると思われる)


■死亡者名に関しては、こちらを参照のこと → 死亡者名簿(ケイタイ用はこっち→死亡者名簿
※ネタバレになる可能性があるのでリンク先に移しました。読み始めて間もない方は、出来るだけ最新話を読み終わるまで見ないようにしてください。

 

続きを読む "トップページ"

| | コメント (51)

プロローグ

20XX年5月23日(木)

 それは、春も終わり頃とはいえ異様に蒸し暑い朝のことだった。

 空には厚ぼったい雲が広がり始め、昇ったばかりの真っ赤な朝日が周りの雲とその下に広がる街を不吉な赤い色に染めていた。
 古来より朝焼けの時は天気が下り坂に向かうといわれてきた。実際は必ずしもそうではないが、雲の様子やこの異様な蒸し暑さは雨が降る前兆であろう。

 その朝焼けに染まった、まだ早朝の人通りのない歩道を、1人のホームレスがとぼとぼ歩いていた。

 彼は、この界隈のホームレスの中でも特に古参であった。彼が何故人生をドロップアウトして、このような境遇に墜ちてしまったのかは誰も知らない。
 その隠者のような風貌には深い皺が刻まれており、何かを諦めたような顔にはむしろ達観したような風情すら感じられる。
 彼は、日課のように早朝から歩き回るのだが、今日もそれは変わらないはずだった。

 ふと、彼は道路の路肩よりにペットボトルが落ちているのを見つけた。
 中にはベージュ色の液体が入っており、フランス語とカタカナで「カフェ・オ・レ」と書いてあった。彼はそれを拾おうと、ゆっくりのそのそと近づいた。ところがさっきまで路肩駐車していたトラックが急に走り出し、ペットボトルを踏みつぶして去っていった。
 ベージュ色の液体があたりに飛び散り、彼にも大量にかかってしまった。
 彼は恨めしそうにトラックの後ろ姿と潰れたペットボトルを一瞥すると、ふうとため息をつき、またとぼとぼと朝焼けの中を歩き始めた。

 場所は、九州はF県K市の繁華街近く。

 日が昇るにつれ、日差しが街を照らしたがそれもつかの間のこと、8時頃になると、もう空は雲で覆われ、大粒の雨が降り始めた。雨は飛び散ったペットボトルの液体を綺麗さっぱり側溝へ流してしまった。
 しばらくすると、あまりの大雨に雨水が充分捌けず路肩脇に溜まってきた。
 その水溜りに件の潰れたペットボトルが、誰にも気に留められず、ぷかぷかと浮いていた。

次へ

|

1.序章 (1)インフルエンザA

 最初にここに来ちゃった方、まず、プロローグからお読みください。

 本編の前に少し注釈を。
 便宜上、日にちと曜日は設定していますが、特に何年に起こった事件とかの設定はありません。まあ、1年か2年先くらいの超近未来と思ってください。
 2009年の新型インフルエンザ発生後それなりに落ち着いた世界です。物語の発端であるM町のインフルエンザ流行は、新型インフルではなくて季節性インフルの地域的な突発的流行です。
 では、本編をお楽しみください

第1部 第1章流感 (1)インフルエンザA

「ああ、一週間も休んでしまった」
 篠原由利子は電車の中でつぶやいた。彼女は30代後半、際だって美人ではないが整った知的な顔をしている。背が高めでスレンダーな体型にショートカットがよく似合っているが、そのせいか時々妙に若く見られる時があった。いつもなら、パンツスーツを決めて颯爽と出勤する彼女だが、今朝は病み上がりの為いまいち冴えない様子であった。

(ああ、行きたくないなあ・・・)
 本当はもう一日休みたかったのだが、このままだと出社拒否症になりそうだと思い、自分に鞭打ってようやく体を布団から引っぺがしたのだった。
 一週間も寝ていたので流石になんとなくフラフラする。家を出て3分もしないうちに、気持ち悪くなって立ち止まった。少し休むと吐き気は治まったが、由利子は念のためいつもよりゆっくり歩くことにした。それが良かったのか、続けて吐き気が起きることはなかった。

 おかげで電車を一本逃してしまったが、次の電車でもギリギリ始業時間に間に合うはずだ。
 病み上がりで立ったまま電車に乗るのは辛かったが、まだ若いのに席を譲ってもらえるはずがない。仕方なく、出入り口横の手摺りにしがみついていた。

 F県K市の一部でインフルエンザが流行していた。
 気温が上がってからの遅い流行であるため、沈静化していたA型H1N1、いわゆる新型インフルエンザの再燃が疑われたが、PCR検査の結果、季節性のインフルエンザでいわゆるロシア風邪といわれるものと言うことがわかった。この時期からはあまり大流行しないタイプのインフルエンザなのだが、春なのに乾燥した気候が続いたせいかもしれない。

 インフルエンザウイルスは、湿気に弱いが乾燥にすこぶる強い。さらに、乾燥しているとウイルスが空気中に舞いやすく、その分感染も広がりやすくなるのである。
 由利子も不本意ながら感染、自宅でぶっ倒れてから高熱で動けなくなってしまい、そのまま会社を休んだ。幸い寝込む前に病院に行き、簡易検査でインフルエンザと診断されて、抗インフル薬はもらっていたので助かった。

 大学を出てから家族と離れて一人暮らしをしていたが、身動き出来ないとなると、医者に行くため家族を呼んでしまうだろう。だが、旧型とはいえインフルエンザは感染力の強い病気なのだから親に感染(うつ)してしまいかねない。
 それで、かなり苦しい思いはしたが、親には連絡しないことにした。言うと心配して来てしまうだろう。飼っている猫の世話等の最低限のことは、なんとかすることが出来た。
 たまに勇気ある友人が尋ねてきて、食事や簡単な身の回りの世話をしてくれた。由利子は感染(うつ)るからと断ったのではあるが。
 幸い、由利子からは誰にも感染しなかったようだ。季節外れの局地的インフルエンザ禍は早くも終息に向かっていた。

(大体、アイツが無理して出社してくるから。)
 由利子は思い出してため息をついた。それは8日前・・・。

 その日の朝のことだ。
 由利子と同じ2課の辻村という若い社員が、自分の席で顔を真っ赤にしながらふうふう言っていた。由利子はお茶を配りながら「大丈夫?」と聞いてみたが、彼はか細い声で「う~~~ん」と答え、机に突っ伏した。
「大丈夫じゃないじゃん。」
 と、由利子。その様子を見て古賀課長が言った。
「おい、オマエの家、M町やろ?あそこは今インフルエンザで大変らしいやないか。オマエも子どもあたりに感染されたっちゃろ! きつかろうし、もう帰ってんよかぞ」
 辻村は顔を少し上げてエヘヘと力なく笑った。
「でも、今日中に仕上げんといかん書類があっとです」
 そういいながら、彼はくしゃみを3連発し、古賀が露骨にいやな顔をした。その時、2課のドアがバーンと開いて、年のころ40半ばの小柄な女性が飛び込んできた。1課の黒岩るい子だ。
 サージカルマスクで武装した彼女は、2課に入るなり大声で怒鳴った。
「辻村~! 休まんか~~~!!」
 彼女は事務服の代わりに私服の上に自前の白衣を着ていた。
 以前、由利子が何故そんな格好をしているのか聞いたら、
『あ、これ? 大学の時使ってたヤツやん。写真現像する時に汚れるけん着とったと。ホラ、事務服だと、他所からきた人たちからなんか見下されるやろ。白衣を着てると何故か神妙に挨拶されるっちゃんね~~~。面白いよ、あっはっは。あ、後、着替えがめんどくさいやろ。この歳になると、夏場は着替えるだけで汗だくになるしさ』
 と、こう答えた。少し変わり者のようだ。

 黒岩は続けて言った。
「あのね、インフルエンザは風邪じゃない。風邪と比べて厄介で重症化しやすいし死亡率も高い。熱のある間は休んで感染を防がんといかん。
 それからマスクはちゃんとつけなさい。ウイルスは小さいからマスクの布目なんか通り抜けるけど、少なくとも咳やくしゃみの飛まつ感染は防げるから。今からさっさと帰って病院に寄ってタミフルもらって飲んで寝てな。あ、車は乗らんほうがよかけんね」
 彼女は言いたいことを言った後、持ってきたマスクを無理やり辻村につけると2課から出て行った。小走りだった。そのあと下の湯沸し室から手を洗う音とうがいをする音が聞こえた。社用で寄り道をしたために、少し遅れて出社してきた横田が、たった今すれ違った彼女の後姿を一瞥して不審そうに言った。
「なんや~?黒岩のオバサン、どうかしたとや?」
「辻村さんにインフルエンザなら休めって言いに来てその後にあれよ。なんかヒドイ疫病患者みたいな扱いよねぇ。ねえ、辻村さん!」
「ふあい。疫病患者ばマスク付けて大人しく仕事しばす」
「辻村、ほんとに大丈夫なんか?」
 ますます鼻声のひどくなる辻村を見て、古賀が不安そうに言った。皆が医者に行けと言ったが、辻村は大丈夫の一点張りで、仕方ないので各々仕事を開始した。
 由利子がせっせとデータを打ち込んでいると、どさっと音がした。ぎょっとして音の方向を見ると、辻村が床に倒れていた。
「辻村さん!!」
「様子が変やぞ」と横田。二人は辻村に駆け寄り、横田が辻村を抱き起した。見てわかるくらいガタガタと震えている。
「辻村さん、しっかりして! 辻村さん!」「おい、辻村ぁ! どうしたんか、オレや、横田や、わかるか?」
 二人の声に、電話をしていた古賀が驚いて電話を切って飛んできた。「おいこら、辻村! しっかりせんか! わあ、白目むいとる!! 篠原君、救急車、救急車!」

 ピーポーピーポー・・・

 辻村を乗せた救急車が、甲高い音を響かせながら去っていった。付き添いには横田が乗っていった。
 会社の玄関周辺には他所からの野次馬がいっぱいたかっていたが、救急車が去ると各々持ち場に戻っていった。
「大丈夫でしょうか」
 と、由利子。
「う~ん、ありゃ脳炎を起こしとるかもしれんなあ。ま、倒れたのが会社でよかったよ。すぐに119番出来たからな。さ、俺らも仕事に戻ろうか。心配やけど医者に任すよりどうしようもないもんな」
 古賀は言いながら部室に戻っていった。
 由利子がさて私も帰ろうかと思いながら、ふと横を見ると黒岩が立っていた。
 しっかりマスクを付けたままだ。白衣を着ているのでどこかの研究者みたいだ。
(これなら挨拶されるわね)
 と由利子は思った。
 黒岩は由利子に言った。
「だから言わんこっちゃない。高熱で無理するからだよ。篠原さん、あんた一番辻坊の近くに居たんだし、気分が悪くなったらすぐに病院に行きなさいよ。会社で倒れていいわけないやん。他の人に感染(うつ)したら大変やろうもん」

 黒岩の言うとおりだった。午後になるとなんだか寒気がし始めた。古賀もさっきからくしゃみばかりしている。
「ぶるる、感染ったかな?」
 古賀は独り言のように言った。「篠原、オマエは大丈夫か?今日は早く帰れ、いいな。」

 夕方5時過ぎて帰る頃になると、由利子はもうふらふらし始めていた。関節も節々に痛みを感じている。やはり感染(うつ)されてしまったらしい。
 古賀から追い立てられるように会社を出て、帰り道にある内科に駆け込んだ。検査キットで調べるとテキメンでインフルエンザの反応が出た。医者が言った。
「ちょっと前なら、インフルエンザの特効薬はとっくに在庫がないところだったんだけどね、新型が出たこともあって夏季も備蓄するようになったんだ」
 由利子にはインフルエンザは高校生以来罹った記憶はないが、高熱と関節痛で死ぬほど苦しんだことは覚えていた。
 タミフルを処方され病院を出ると、ようようの思いで部屋まで帰り着き、着替えもそこそこにそのままベッドに倒れこんで、そのまま上記のように3日間ほどほとんど身動き出来なかった。
 黒岩が同僚を連れてお見舞いに来て、ついでに大量のスポーツドリンクとビタミン剤を置いていってくれた。辻村は処置が早かったため、順調に回復しているらしい。
 だが古賀課長も倒れ、他に数人が感染してしまったという。幸い、横田には感染(うつ)らなかったようだ。「横田さんったら、『馬鹿は風邪を引かないって本当だろ~。』とか言ってんのよ。笑えねぇって」
 見舞いに来た同僚が笑いながら言った。

 そんなことを回想していたら、駅に着いてしまった。
 改札を出て、バスセンターに向かった由利子は外を見て愕然とした。電車の中から見たとき小雨だったのが、バケツをひっくり返したような大雨になっていたからだ。確か朝は晴れていたのに。
「こういうのを『姑の朝笑い』って言うんだな・・・。」
 由利子はつぶやいた。やれやれ、またバスが遅れるな、と思いながら普段なら絶対に座らないバスセンターのベンチに力なく座った。歩いても20分くらいの距離ではあるが、ただでさえ病み上がりなのに、こんな大雨の中を歩けるわけがなかった。

 最悪の病み上がり第1日目だった。しかし、それが彼女がこれから巻き込まれる事件の前触れであることは、今の由利子には知る由もなかった。

|

1.序章 (2)近況報告

 ようやく会社についた由利子はエレベーターを待つことにした。
 彼女の会社はビルの3階にあり、普通なら階段を使うのだが、さすがに今日はその気力がなかった。その間に黒岩が走って来た。
(ありゃー、黒岩さんと同じ時間になっちゃったな。完全に遅刻だわ)
 由利子は思った。黒岩は遅刻常習犯だった。黒岩は息を切らしながら汗を拭き拭き言った。
「あ、篠原さん、おはよう。大丈夫? もういいと?」
「はい、もう大丈夫です。ちょっとキツイけど」
 由利子は答えた。エレベーターが到着し、ふたりは乗り込んだ。小柄な黒岩は由利子を少し見上げながら言った。
「このインフルエンザ、変とは思わんやった?」
「特に・・・。普通に高熱が出て普通に関節が痛くて普通に治ったような気がしますけど・・・。かなりキツかったけど、インフルエンザってそんなもんだし」
 そこまで言うとエレベーターは3階に到着した。
「あ、着いちゃった。続きはお昼休みにね」というと、黒岩は元気よく駆けだした。その後姿を見ながら、ため息をついて由利子も歩き出した。走るなんて、まだとてもそんな元気は無かった。

「あのさ、そもそも新型でもない普通のインフルエンザが、こんな5月も終わり頃に流行るってのが変と思うっちゃん」
 昼休み、黒岩が待ち構えたように2課の部屋に入って来るや、由利子の隣に勝手に椅子を引っ張ってきて、座りながら言った。由利子はまだ弁当を食べていた。まだ気分が優れず食が進まなかったからだが、黒岩が話しかけてきたので食べるのを断念し、片付け始めた。
「あ、ごめん、食べよっていいとよ」
 黒岩が申し訳なさそうに言った。
「いいんです。実のところ、今日はあまり欲しくなかったから」
 と、由利子が答えたので、黒岩は安心して続けた。
「普通インフルエンザのウイルスは湿度と高温に弱いけん、冬に流行するやろ? あの新型豚フルならいざ知らず、何で季節型が今頃大流行したんと思う?それもM町近辺限定でさ」
「季節性インフルだって、必ずしも冬場しか流行しないとは限らないでしょ? それに、強毒性が心配されているトリインフルエンザの発生地、東南アジアの方は、暑いし湿度も高そうじゃないですか」
「まあ、そうだけど、時期はずれの上に何でM町に集中してるのかって。それに・・・」と少し間を置いて言った。
「ひょっとして、例の特効薬、効かなかったんじゃない?」
 そういえば、一向に楽にならなかった。そのせいで一週間も休むハメになってしまったのだ。
 しかし、インフルエンザの抗ウイルス薬に耐性を持つウイルスについて以前新聞で読んだことを思い出し、黒岩に言おうとしたが、黒岩は質問のターゲットを違う方向にロックオンしていた。
「そういえば辻村君、あんたのインフルエンザ何処で拾ってきたん?」
「え~、オレですか~?」
 今まで机に突っ伏して寝ていた辻村は、いきなり話題をふられて顔を上げ、赤くなった顔で眠そうな目をこすりながら言った。
「息子の通っている幼稚園で急に集団感染したとです。で、すぐに園を閉鎖したけどすでに遅く息子も感染してしまって・・・。そして、次にカミさんがやられてその後にオレが感染ったとです。一家全滅ですよ」
「で、辻村君から篠原さんと古賀課長に感染したんやね」
「申し訳なかったです。オレがちゃんと休んでいたら・・・」
 辻村はしょんぼりとして言った。
「やけど、もう流行はほぼ終息したっていうことですけん」
「う~~~ん、やっぱとーとつやねえ」と黒岩。
「で、黒岩さんはどう思ってるんですか?」
 と由利子が言った。内心(この人は言うことが大袈裟だからなあ)と辟易していたのだが。
「笑うなよ。遺伝子操作の新型で、きっとどこかの研究室から漏れたんじゃないかって思っとるんやけど」
「黒岩さ~ん、変な小説の読みすぎですよ~~~」
 辻村が笑いながら言った。
「だから笑うなゆーたやん」
 黒岩は少し顔を赤くして言った。自分でも若干そう思っているのだろう。由利子は笑わなかったが疲れが倍増した気分だった。
「は~い、もう1時過ぎてるよ~~~、持ち場に就こうね」
 いつの間にか古賀が部屋に帰ってきていた。
「は~~~い、すんませ~~~ん!」黒岩はあわてて出て行った。2課はいきなり静かになった。

 由利子は5時になると、直ぐに会社を出た。ぐずぐずしているとまた黒岩に捕まりそうだったからだ。雨は昼過ぎには落ち着いて、夕方にはもう薄日が差していた。この日は何処にも寄らずにまっすぐ帰った。

「にゃ~子、はるタン、ただいま~」
 部屋に入るとすぐに愛猫の『にゃにゃ子』と『はるさめ』を呼んだが出てこない。
 探したらベッドの中で仲良く熟睡している。室内で大暴れした形跡があった。久々にケージから出され、ヒートアップしたらしい。
「くぉ~ら、おまいら~~~。」
 いつもならひっくり返しておなかモフモフの刑に処すのだが、今日はそこまで元気がなかった。それで彼女らはそのままにしておいて、あり合わせの材料で適当に食事を済ませて、ゆっくり風呂に浸かった。
「んんん~~~」
 湯船で腕をぐっと前に伸ばしながら背伸びをした。節々が生き返ったような気がした。
(あさってあたりからジムに復帰しなくっちゃ)
 病気で休んでいる間に、身体は鈍りに鈍っていた。

 風呂から上がると、テレビとパソコンをつけてカフェ・オ・レを飲みながらまったりとメールやサイトのチェックを始めた。由利子のブログを見ると、彼女の身体を心配するコメントが沢山ついていた。インフルエンザで休んでいる間、当然更新も滞っていたが、昨日やっと数行近況を書いてアップしていたのだ。しかし、一々返事を書くのもまだ疲れるので、今日のエントリーでお礼を書くことにした。

みんな、ありがとう。もう大丈夫だよぉ~。 (`・ω・´) シャキーン

とか言って、ホントはちょっとキツイけどさ~。 ( ;-∀-)ノ

 などと、テレ隠しにガラにもなく顔文字を多用して書いてみた。一通り書き終わったあと、今日のことも少し書いてみることにした。

でね、私の会社にいるKさんって人が、「これは遺伝子操作されたインフルエンザじゃないか」なんてスゴイこと言うんだよ┐('~`;)┌
ない、ないって(爆)

じゃ、また明日から平常運転に戻りま~す。今日はもう寝るね。

 と書いて、書き込みボタンを押した。
「これでよ~し」
 そう言うと、さすがに疲れたので、本当に寝ようと這うようにベッドまで行った。布団をめくると愛猫たちが、相変わらずど真ん中に眠っていた。飼い主の帰ったのも知らずに爆睡している。
(こん子たちはもぉ~)
 あきれながらも彼女らを避けるように布団に入り、そのまま電気を消した。

|

1.序章 (3)一粒の種から

20XX年5月24日(金)

 翌朝、由利子は平常の朝どおり6時に起きる事が出来た。目が覚めるとにゃにゃ子が顔面に、はるさめが腹の上に乗って寝ていた。由利子が病気だったので、昨日の朝までケージに入れられてしまっていたのだから羽を伸ばすのも無理はない。しかし、顔面はないだろう、と由利子は思った。
 普段彼女は朝起きると30分ほど軽くジョギングをするのが日課である。それで、今朝は気分がだいぶよいので、久々に出かけることにした。

 昨日とはうって変わって爽やかな朝だった。5月も後半になると新緑の葉色もだいぶ濃くなってきている。
(この時間もすっかり明るくなったなあ。)
 走りながら由利子は思った。県道の横を走って川沿いに抜ける。川の土手にはさまざまな野草が色とりどりの花を咲かせており、木々や電線の上で小鳥達が口々にさえずっている。
 川の浅瀬にはアオサギが魚を狙って静かに立っていた。この時間はいつもあそこにいるので多分同じ個体だろう。コサギも数羽見かけるようになった。
「しっかし、雑草に外来種が増えたなあ。花が綺麗なのはいいけど」
 いつもの折り返し地点で、軽くストレッチをしながら由利子はつぶやいた。
 近年オレンジ色のナガミヒナゲシや薄紫のマツバウンランなどが、特に目立っている。
 可憐な紫の小さい花を沢山咲かせるマツバウンランは、愛好者が多く専用のサイトまで出来ている。しかし、その見かけの可憐さとは裏腹に、痩せた土地にもどんどん勢力を広げることの出来る頑丈な雑草だ。日当たりのよい空き地には大抵群生している。冬場にしっかり文字通りの根回しをしているからだ。
「お前達、アメリカ生まれなのにずうずうしいぞ」
 といいながら、由利子はマツバウンランの花を何本か手折ると、折り返しの道を走り出した。飾るにはヒナゲシのほうが派手でよかったが、切り口からの白い汁で手がカブれそうだからやめた。因みにこのケシからは麻薬は取れない。まあ、取れないから生え放題に放置されているのだが。
 このように、かなり勢いを増している雑草界の外来種だが、彼等とて初めからこのように蔓延っている訳ではない。
 最初は、わずかな数の種子が日本の大地に根を下ろしたに過ぎなかった。しかし、あらゆる偶然が重なり、このように日本中に広がっていったのである。
 もし、その植物の繁殖力が旺盛でさらに条件がそろったなら、たった一粒の種が芽生えたために、それが日本中に蔓延る可能性だってあるのだ。ましてや、何者かが故意に増やそうと画策したならば・・・。

 由利子はジョギングから帰って、トイレにマツバウンランの花を飾った。
 角部屋のため、トイレとバスルームは比較的日当たりが良く明るい。その後シャワーを浴びると、おなかすいたとまとわりつく猫達にごはんを与え、自分も朝食をとりながら由利子は昨日アップしたブログをチェックした。すると、異様にコメントが付いている。あれっと思って見てみると・・・。

「大丈夫ですか?熱が高かったのでひょっとして・・・・? と心配しています。大丈夫ですよね。」

「顔文字多用禁止~。きんも~☆(死語) とりあえずインフルエンザ生還乙」

「まさか・・・まさか、脳炎起こしてないでしょうね。次回からの平常運転をドキドキしながら待ってます」

「おまいは顔文字似合わないからやめれ。(´∀`)つ[快気祝い]
いや、オレはいいんだオレは(・∀・) 」

「見た瞬間、どこの女子高生のブログかと思いましたよ、もぉ!。でも回復してよかったです。しばらくお体ご自愛ください」

 顔文字と改行を多用した、昨夜の記事に対する苦情コメントがどっさり付いて、プチ炎上していた。不評だった。
 しかしながら、ほとんどの人が由利子の回復を喜ぶコメントを付け加えてくれていた。
(オバサンは顔文字を使っちゃいかんのかい!)
 由利子はすこしがっかりしたが、反面(みんなほんとうに心配してくれてたんだ)と嬉しかった。思ったより読者が多かったのも気を良くした。
 一通りざっとコメントに目を通していたら、ひとつだけ妙なコメントが付いていた

名前:アレクさん大王
「生還おめでとう。君の友人はいいカンしてるよ。僕も少し妙だと思う」

 昨日の付け加え記事へのコメントらしい。
「アレクさん大王? アレクサンダー大王のもじりよね。『生還おめでとう』って、気味悪い変なコメント・・・」
 由利子はつぶやいて一瞬消そうと思ったが、そのせいで粘着されても困るので放置を決め込み、メールチェックを始めた。
 ほとんどが購読中のメールマガジンだったが、1通友人の美葉から来ていた。ここ2年ほど連絡がなかったので気になっていたのだが、ある理由からなんとなく放置していた。
 メールには由利子が寝込んでいたことへのお見舞いと、近いうちに会いたいから、会える日を連絡くださいということが書いてあった。
(あれ? 最近連絡してないのに、何で私が病気したの知ってるんだ?)
 由利子は疑問に思ったが、ふと時計を見ると7時をとっくに過ぎていた。
「急がないと遅刻じゃん!」
 美葉への返事は会社で書くことにして、由利子はあせって準備を始め、ギリギリの時間にマンションを飛び出した。

(「第1章 流感」 終わり)

|

2.胎動 (序)黒い河面

20XX年5月27日(月)

 夜のC川は、暗い河面に周囲の街灯や建物の明かりを映しながら、満々と水を湛えてゆっくりと流れていた。日付が変わったこの時間になると、流石に建物の明かりもだいぶ消え、水面には街灯の明かりが規則正しく並び、堤防上の道路を時折通る自動車のヘッドライトが流れるように移動している。人通りはほとんどなく、橋の下に住み着いたホームレスも、すでに白川夜船であった。

 そんな静かな川のほとりをフラフラと歩く人影があった。その人影は不気味にうなりながら、時折転び、這いずりながらようやく立ち上がってヨロヨロ歩くことを繰り返していた。その動きは緩慢で、ただ壊れた機械が無目的にようやく動いているようにすら見えた。さらに、時折自動車のヘッドライトに照らされた、その男の姿には異様なものがあった。
 男の衣服は汚れて身体も垢にまみれていたが、ボロボロに敗れかけた服から覗く肌にはあちこちに血が滲んでいた。一見ひどい事故に遭ったような男の風体で、ライトに照らされたその顔も数箇所にわたって血が滲み鼻からも血が流れていた。しかし、そんな悲惨な状態よりさらに凄まじかったのはその両目であった。真っ赤に充血してあふれた血が流れ出している。
 最初はなんとか歩いていた男だが、だんだん転ぶ回数が増え、しまいには半ば這うような状態でひたすら前に進んでいた。一体そんな状態でどこに行こうとしているのか。
 彼の頭の中は、今、ひとつの考えのみが支配していた。

 ――タシカ、コノサキニ、ダレカ、スンデイルハズダ。ソイツニ、アワナケレバ。

 とにかく誰かに会わねばならない。この体が終わる前に。会って・・・。

       会って?

 会ってどうする? おそらく彼にもそれはよくわかっていなかった。ただ彼はゆっくりと、しかし、ひたすら進んでいた。

 ――ソウダ、アノハシ、アノハシダ。アソコニヤツガイル。イソゲ。イソガナケレバ・・・

 目標を確認して、彼はやや焦った。這うような状態からなんとか立ち上がって数メートルよろけながら走った、いや、走ったつもりだった。しかし誰か見ているとしたら、それは緩慢な歩みに見えたかもしれない。
 ところが、彼の焦りが今までなんとか保っていたバランスを失わせてしまった。彼の身体はよろけた。目の前には取水用の水路があった。まずい。彼は方向転換をしようとしたが、そのために思い切り足を滑らせた。

 道路橋の下を『住居』と決め込んでいる男は、夜中、川に何か大きなものが落ちたような音を聞いて目を覚ました。彼は不審そうにもそもそ起き出すと、身体をあちこち掻きながら、粗末な『自宅』から出て川の様子を見た。しかし、川は、何も無かったように静かにゆっくりと流れていた。彼は首をかしげながら『住居』に戻っていった。

 しばらくすると、川になにか大きいものが浮かびゆっくり流れていった。それはいずれ、葦原の中に静かに消えていった。

次へ

|

2.胎動 (1)ニュース

20XX年5月29日(水)

 由利子は久々にスポーツクラブに来ていた。2週間ぶりくらいだろうか。彼女の姿を見つけた担当インストラクターのお兄さんが、走って寄ってきた。背はあまり高くないがボディビルダーで、筋骨隆々だ。無駄に爽やかな笑顔を振りまいている。
「篠原さん、こんばんは~。」
 と満面の笑顔で言った後、彼は真顔になって言った。
「ずいぶんお見えになりませんでしたが、どうかされていたのですか?」
「実は季節外れのインフルエンザにかかっちゃって・・・」
 と、テレ笑いをしながら由利子。
「そうだったんですか、大変でしたねえ。だけど、どうしてまた?」
「会社がK市にあるんですよ、それで・・・」
「あー、会社で感染されたんですかぁ。確か流行ってるのK市のほうでしたもんね。いえ、だいたい3日間隔で来られているので心配してましたよ」
「あら、ありがとうございます。でももう大丈夫ですから」
 由利子はガッツポーズをして見せた。
「でも、今日はあまり無理をしないようにして、早めに切り上げて下さいね」
 と言いながら、インストラクターは去っていった。

 由利子はとりあえずエアロバイクに乗ってみることにした。ちょっと軽めに漕いでみる。大丈夫だ。その後いつもの負荷にして20分ほどやってみることにした。
 本当に久々に来たような気がした。一月くらい休んだような感じがする。スポーツクラブの独特の臭いと機械と人の声・BGM・・・。後方では、エアロビクスをやっていて、レオタードの女性達に混じって、数人おじさん達がバツの悪そうに踊っていた。ああ、いつもの風景だ、と由利子は思った。そして、「やっぱり平穏が一番よね」とつぶやいた。エアロバイクを漕ぐ間、ヒマなので前に設置してあるテレビを見ることにした。今日は本もiポッドも持ってきてなかったからだ。テレビはすでに7時のニュースが始まっており、今日は珍しく目ぼしい事件がなかったようで、どこぞの寺の話だの動物園で動物の赤ちゃんラッシュだの総理大臣がまたキレただのという、のどかな話題が中心だった。
「続いてF岡からです」
 ニュースはローカル版に移行し、クソ真面目な顔をした、目の妙にきれいな若い男性アナウンサーが映った。そして画面は見たことがある風景に切り替わった。川の土手に立ち入り禁止のテープが張られており、数人の警官が何かを捜査していた。
「昨日C川流域で発見された男性の遺体ですが、死亡推定時刻より損傷が激しく、警察は事故と自殺の可能性に加え、この男性がなんらかの事件に巻き込まれた可能性も視野に入れて捜査することにしたということです」
 見たことがあると思ったら、C川だったのか、と由利子は納得した。
 その川は会社からも近く、時々お昼に弁当を持って川土手まで遠征することがあった。大きくてゆったりとした川だ。食べ終わった後、よく寝転がって小鳥の声を聞きながらまったりと雲を見る。K市はあまり好きではないが、C川は好きだった。そんな川に遺体が流れてたのか、そういえば、今朝そんなニュースを言っていたな。由利子は少し鬱になった。しばらくは川土手に行くのはやめよう、そう思った時、隣でエアロバイクをこいでいた女性が由利子に向かって言った。
「やだ、それって殺して川に投げ込んだってことやろ?それでなくても水死体っちゃぁえずかとにねえ」
「そうですねえ。監察医の人も大変ですね」
「オヤジ狩りやないと?最近の子どもって怖いけんねえ。ウチにも中学生の男の子が二人おるんやけど、最近なんを考えとるんかいっちょんわからんっちゃけん」
「そうですか。大変ですね」
 答えながらも、二人も中坊の子どもが居るのにここでエアロバイク漕いどったらイカンやろーもん、と思ったら先方は見越したように言った。
「今、子ども達は塾の時間でね、おとうさんはシンガポールに単身赴任やし、ここでジムやって終わった頃迎えに行ったらちょうどよかとですよ」
「そうですか、息子さん達もお母さんのお迎えがあるなら安心ですね」
 由利子は答えたが、そろそろ会話がうっとおしくなってきた。知らない人と話すのはどうも疲れる。そう思っていたら、ちょうどバイクの終了ブザーが鳴った。
「じゃ、お先に~」
 由利子はさっさとバイクを降りてウオーミングアップのストレッチをするためマットのある方向に走っていった。

次へ

|

2.胎動 (2)コンコース

20XX年5月31(金)

 二日後の夕方、由利子は友人の美葉に会うため6時過ぎにK駅にいた。
 バスが遅れた場合を考えて、歩くつもりで早めに会社を出たら、何故かバスがすぐに来てその上さして渋滞もなく、普段より早く着いてしまった。普段でも念のため約束より早めに着くように心がける由利子なので、だいぶ時間が余ってしまった。それで時間つぶしに駅のコンコースをうろうろしていたが、約束の7時には程遠い。暇を持て余した由利子は本屋に行くことにした。本屋なら1時間2時間だってタダで時間つぶしが出来る(もっとも本を衝動買いしていしまい、却って金がかかる場合が多いのが難点だが)。それで、彼女は本屋に向かうエスカレーターに向かって歩き出した。その時、彼女の前を男子中学生が数人わやわや話しながら通って行った。
 彼らは人が歩いているその前を何もはばからずだらだらした歩きで横切っていく。その傍若無人さに由利子は少なからずムカッとした。しかし、最近の中学生は恐ろしい。由利子は立ち止まって彼らの行過ぎるのを待った。その間暇なので彼らを観察することにした。みんなだらしなく学生服のズボンをずり下げて履いており、足が極端に短く見える。制服からK市にある有名な私立進学校の中等部の生徒だということがわかる。わざわざ遠くから通わせる親もいるほどの有名校だった。しかし、どんなところにもこういう連中がいるものだ。
 由利子が中高生の時もボンタンとかいうズンダレたズボンが流行ったが、こういう連中の好みは世代によらず似たようなもんだと思った。反面女子生徒のスカートは短くなってしまっているが。
 由利子は彼らの中で一際目立つ少年に気がついた。ジョミーズの人気グループ「V-lynX(ファイヴ・リンクス)」のタツゾーにとても似ていたからだ。背はちょいと低いが、渋谷あたりを歩いているとスカウトされそうな感じだった。彼もそれを意識してるんだろう。さかんに「じゃね?」とか「ヤバくね?」とか言っている。はっきり言ってうっとうしいタイプだ。由利子はジョミオタではない。ここで彼女を擁護すると、彼女は萌えで少年アイドルを覚えていたのではなく、これは彼女の特技によるものだった。
 彼らが通り過ぎる様に由利子は不穏な会話を耳にはさんだ。
「あ~~~つまんね、今日は塾サボったし」
「ガッコも塾もつまらねーし」
「今日当たりまたやっか?」
「やめろよ、昨日のニュース見たやろ?」
「あれは俺らじゃねーし」
「シーッ!」
(うわ・・・)
 由利子は思った。昨日ジムで隣の女性が言った言葉はあるいは間違いじゃなかったかもしれない。しかし、あの件に関しては、彼らがやったのではないらしい。嫌な会話を聞いてしまった・・・。由利子はものすごく気分が悪くなってしまった。しかし、妙なことには関わらないほうがいい。(聞いてない、聞いてない)彼女は極力平常心を保って振り返らないように歩いた。しかし、由利子はなんらかの手を打つべきだったとあとで後悔することになる。とはいえ、彼女にはこの時点ではどうしようもなかったと思われるが・・・。

 7時が近づいてきたので、メールで打ち合わせた店の前に向かった。手には本屋の手提げ袋を持っており、その中には分厚い本が2冊。やはり衝動買いをしたらしい。少し走ることになったが5分前にはそこに着いた。すると、遅刻常習犯の美葉が珍しく先に着いて待っていた。
「由利ちゃ~ん、こっち!」
 美葉が盛んに手を振っている。
(F市内の繁華街じゃあるまいし、そんなしなくてもわかるわよ)
 と、由利子は思ったが、とりあえず彼女の方に小走りで駆け寄りながら言った。
「早かったね、待った?」
 これは通常なら美葉の台詞だった。立場が逆転したような妙な気持ちだった。
「私もさっき来たっちゃん」美葉は答えた。「とりあえずお店に入らん? おなか空いちゃった!」

 そこはF市内でチェーン店を展開している有名居酒屋グループの店舗のK店で、新鮮な海鮮料理を安く提供するというのが売りの店だった。由利子は海鮮料理が大好物だったので、大喜びで刺し盛りやら鯛のあら炊きやらアサリのバター焼きやら注文した。ビールは好きではないのでのっけから日本酒を冷酒で頼んだ。豪快な女である。美葉は、生ビールを頼んでいる。二人は乾杯し、料理が来るまで突き出しの小エビのから揚げをつまみでやっていたが、まもなく料理が並んだ。刺し盛りはカンパチと甘エビとイカとマグロ。イカは透き通っていて、その新鮮さを物語っていた。
「おいしーねー!」
 由利子は上機嫌だった。しかし、美葉はこころなしか浮かない顔をしており、おなかが空いたといっていた割りに食も進んでいない。由利子はそもそも今日彼女と会ったのは、相談を持ちかけられたからということを思い出した。しかし、思うところがあり、美葉から切り出すのを待つことにして、まったく違う話題を振ることにした。
「そうそう、さっきね、『V-lynX』のタツゾーに良く似た中学生を見たんだ。クソガキだったけど」
「タツゾーに? へぇ~、私ファンなんだ~。今度見つけたら教えて! 由利ちゃんは顔と名前を覚えるの得意だから、きっと1年後でも覚えとるやろね」
「まあね、それも良し悪しの特技なんだよね。だって特徴があれば一発で、そうじゃなくも2・3度見ただけで、覚えたくない顔でも覚えちゃうんだから」
「うふふ、みんな言っとおよ。由利子にだけはデスノートを持たせたくないって。きっと10年20年も前のことでも名前書かれて殺されそうやって」
「そんなしつこいイメージかぁ、私は!」
「それだけ記憶力がいいってことよ」
「でも、人の顔だけだからなー」
 由利子は言った。その分他の記憶力もあればいいのに・・・、そう思っていたら、唐突に美葉がたずねた。
「由利ちゃんは・・・、―――今付き合ってる人、いる?」
 突然の質問に由利子は焦った。おまけにその微妙な間(ま)はなんだよ。
「なんね~、藪から棒に! いないよ、少なくともここ10年くらいは・・・」
 と、少しむっとして答えた。
「そうやろーね。得意先の対応に怒ってその場は押さえたけど、怒りの持って行き場がなくて、湯沸し室で空き缶を素手で潰してへし折っていたら、若い男性社員に目撃されて怖がられたなんて調子では、無理ないか」
「ちょい待ち! 何でそんなこと知ってんのよ!」
「アンタ、ブログに書いてたやん」
「へ?」
「会社の友達に、面白いからって勧められたんよ。そしたらどっかで見たような猫の写真が載っとーし、内容見たらどう考えても由利子やし。偶然とはいえ驚いたけん」
「あ、だから私が病気だったのも知ってたんだー」
 謎が解けてスッキリする反面、ものすごくテレ臭くなってしまった。
「アンタのブログけっこう有名みたい」
「はあああ、誰が見ているかわからんねえ。・・・で、」
 由利子はテレ隠しで話題を振ろうと、つい聞いてしまった。
「相談っていったい何なの?」

次へ

|

トップページ | 2007年5月 »