※注意:今回は怪談話なので、日頃科学的であろうと勤めているところを、若干タガを外しました。多少電波な表現があっても気にしないで下さい(笑)。
これは、私が中学一年から大学2年くらいまで住んでいた社宅の話だ。
その場所は今はもう当時の景観とはまったく変わってしまったが、某大手会社の社宅があった。上に4軒並び、それから土手の下に2軒向かい合わせに同じような平屋が並んでいた。最初越してきた時は小6で、上の道路側に住んでいたのだが、下の人が家を建てて引越しが決まり、子どもが多いということで、私たち家族がその後に住むこととなった。
いつ頃からそういう現象が起こり始めたのかはわからない。最初からだったのに気がつかなかったからかも知れないし、途中から何らかの理由で何か歪みが出来たのかもしれない。とにかく最初は普通に暮らしていたし、こわいなんて思わなかった。
しかし、いつの頃からか時折妙な気配がするようになった。
下の社宅に降りてから迷い犬を飼うようになった。彼は犬小屋ではなく外の納屋で飼っていた。しかし特にその子が怯えたり訳も無く吼えたりすることはなかったのは不思議ではある。
その怪異とは、どこからか箒で掃くような音が聞こえたり、母が転寝(うたたね)をしていると、枕元で他人のいびきが聞こえたり、要するに他に誰かいるような感じだった。私たちは「座敷わらし」と呼んでいたが、ある日決定的な怪異がおこる。
その日は妹と留守番をしていた。天気は曇天だったような記憶がある。夕方になっても母は帰らず、待ちくたびれていたら、玄関の開く音がして、入り口の玉暖簾がカチャカチャ鳴って、買物をした袋を置く音がした。私たちは「帰ってきた!」とすぐに迎えに出たのだが、玄関に行くと誰もいない。ただ、玉暖簾がかすかに揺れていた。私は妹と顔を見合わせると、そのままそっともといた部屋に戻った。
「確かに帰ってきたよね。」
「暖簾の音がしたよね。」
それを確認すると、私たちはそれ以上追及をやめた。結論が恐ろしいものになりそうだったからだ。件の母は日が暮れて帰ってきた。私たちは母に知らせたが、母がどう受け取ったかは覚えていない。ただ、その話をしても、記憶がないようなので子どもの勘違いだろうと思ったのだろう。
しかし、一人で聞いたのなら勘違いや錯覚だが、妹も同じ音を聞いていて、同時に「帰ってきた!」と出迎えに行ったので、錯覚と一蹴する訳にはいかない。
私たちの家は土手の下にあり、上の家に比べて湿気が多い。それに丁度向かいの家(同社宅)の廊下とうちの廊下は直列に並んでいる。だから、ひょっとしたら土手下の2軒の家は霊道に建っていたのかもしれない。
妹が見たのは老婆だった。夜寝苦しさに目を覚ますと、白い老婆がベッドの手摺りにすがりつくような形で周りを伝い、しばらくベッドの足元に佇んでいたそうだ。特に何かをされたわけではないが、とても気味が悪かったそうだ。
さて、私の体験だが、多分大学2年くらいの時だった。炬燵を出していたから冬だったと思う。
その頃はよく炬燵で寝起きしていた。いちいち炬燵を片付けて布団を敷くのが面倒大変だったからだ。その時も炬燵で眠っていたのだが、なかなか寝付けない。時間は深夜1時をとおに過ぎているのに一向に眠くならないのだ。それで寝返りを何度もうっていたら、急に玄関の開く音が聞こえた。そのころ母は7-11にパートに勤めていて、都合で深夜になることもあったが、その日はとっくに帰っており既に白川夜船の状態だった。
侵入者はそのまま家に上がりこむと、どすどすと歩いてまっすぐ私の部屋までやって来て、躊躇することなく襖をガラッと開けて部屋に入ってきたのだ。声がかなり低音だったので、多分男だと思う。そしていきなり私の襟首をつかむと、すごい罵声を浴びせながら、私の頭を炬燵の足に何度もぶつけたのだ。私はというと、既に金縛っており、その「誰か」の成すがままであった。
しかし、そいつが怒鳴りながら何度も人の頭をばふばふするので、「何で私がアンタにそんなことされなイカンの?」と急に怒りがこみ上げてきた。その瞬間にカッとなってキレた私は、動かない身体の力を振絞って金縛りを解こうとした。すると、なんとなく左手が動いたので、そのまま右肩越しに、そいつの手をつかんで引き寄せた。正体を見ようと思ったからだが、まさか本当に手がつかめるとは思ってなかった。しかし、相手の手とセーターを着ているらしき袖口が見えた。袖口の白っぽいラインまで確認できた。その勢いで、すかさず立ち上がって電気をつけた。
しかし・・・、部屋には私以外誰もいなかったのだった。
「夢よ。夢やったんよ。そうよ、そうよね。」私は無理やり自分を納得させ、そのまま無理やり眠ることにした。
山岸涼子の「ゆうれい談」で読んだのだが、モーさま(萩尾望都)は寝ていて妙なものを見たときは無理やり眠るらしく、それにあやかろうとしてみたのだ。金縛りを解くのに体力を使ったからか、眠れなかったことがさっきの現象がおこる予兆だったのか、今度はちゃんと眠れた。
そいつの罵声の内容は今やまったく覚えてないが、相当なことを言われたと思う。思わずキレちゃいまいしたから。
実際、その社宅に何かがあったのか、それとも住んでた私たちの思い込みかはわからない。箒で掃くような音は、隣の家の音が反響て聞こえたのかもしれないし、玉暖簾の音は気のせいで、いびきの音も妹が見た老婆も私の体験も、夢だったといえばそれで説明がつく。私の場合眠れない状態からレム睡眠に入り、夢うつつで強烈な夢を見たのだと説明できる。
以上の話が、勘違い・錯覚の類なのか、本当にその社宅に何かがあったのか、その判断は読者のあなたに任せることにしよう。
「残暑に怪談はいかが?」シリーズその2、「学校の怪異」も読んでね。
最近のコメント