SWIM
実は、私は泳げない。
水自体は怖くないと思う。水恐怖症じゃない程度は。
何度か泳ぐ練習はした。何とか体は浮くものの、手足をばたつかせるごとに潜水し、一向に前進まない。しかも、息継ぎもまともに出来ない。ひょっとしたら、比重が普通の人間に比べて重いのかもしれないと、本気で思った時もありました。
しかしそれに反して、よく海で泳ぐ夢を見る。しかも、それは南の海のような紺碧の海だ。
ある夢では、私はセルリアンブルーの海を思うがままに泳いでいる。
また、他の夢では、私はまるで水棲生物のように、海中を自由に泳ぐことが出来るのだ。碧い海の中をすべるように泳ぎ、時にたゆたうように身をゆだねる。
そのせいか、海中の映像を見ると、妙な既視感を感じる。昔、そこに実際に居たような感覚にとらわれるのだ。
『朝焼色の悪魔』で、紅美という女性が致死性ウイルスに感染し、死ぬ直前に見ている夢で、海中のようなところを揺蕩うシーンを書いたが、それにはその夢の感覚を表現した。我田引水ではあるが、なかなかうまく書けたと思う。
生命の源は海だ。ヒトだってもちろんそれから外れることは出来ない。カミサマが土くれから作り給うたわけではないからだ。
長い単細胞生物時代を過ごした後、多細胞生物に進化し、無頭類を経て、魚類両棲類爬虫類哺乳類と加速的に進化し、ネズミのようなものから多様に分化しその1種が霊長類と進化、現在に至ったと思われる。
胎内は海だし、その中で人が育つ時に進化の過程を反復すると言う(仮説らしいけど)。
海の記憶が、前世が海の生物(ある程度の速さで泳げることから、魚や海獣の類だろう)だったとかいう世迷言を言うつもりはないが、ひょっとして、遺伝子に刷り込まれた海の記憶が夢やその既視感の原因ではないか、と、ふと思ったりもする。まあ、これも世迷言ではあるだろうけれども。
そして、ある曲を聴くと、その、海の記憶が、体感が甦る。
海流の流れ、ただひたすら青い世界、揺れる海藻類、海中から見た太陽光のキラキラする海面、一つの生き物のように海中を舞う魚群・・・。
それは、ストラングラーズの「Swim」。そのものズバリのタイトルだ。
トータルアルバムではなく、「About Time」というアルバムのシングル、「Lies and Deception」というシングルCDに収められている曲だ。
ストラングラーズのメロディアス路線に分類される曲だが、彼らの楽曲の中でもかなりi異色のものだと思う。歌っているのが、バンドの看板ヴォーカルだったヒューの後を継ぎ16年間ヴォーカルを務めたポール・ロバーツで、彼の声はジム・モリソン系なのでさらに異色なのだが、私はこれがかなり気に入っている。
海の中の記憶や夢が、私特有のものなのか、ヒトとして誰もが経験するデジャヴなのかわからない。そして、今回津波被害に遭われた方にとって、海は忌むべきものになってしまっただろう。
だが、海は生命の源である。これは顕然たる事実だろう。
海は恵みをもたらすとともに、災厄ももたらす。そういう意味では神と言うものに近しいのかもしれない。それ故に、怖ろしく、同時に憧憬を抱くのだ。
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ストラングラーズ『SWIM』。MegumiさんがYoutubeにあったのを教えてくれたので貼っておきます(Megumiさん、ありがとう!)。下の美しい海中写真とともにご鑑賞ください。写真はこのサイトから。
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