長崎市長射殺事件について考える
4月17日夜、伊藤一長長崎市長が銃撃され、翌日未明に亡くなられた事件は、日本中に衝撃を与えた。選挙中の候補者殺害。民主主義の根底を揺るがしたともいえる事件である。
伊藤市長は自民党系ではあるが、反核運動に熱心に取り組まれており、歯に衣着せぬ反核演説には確固たる信念があった。本当に惜しい方を失ってしまった。
市長襲撃事件が世間に伝わるや、謀殺説があちこちから沸き起こった。おりしも選挙運動の真っ最中、何らかの政治的意図を感じさせたからだ。
今のところ警察の調べでは、「逆恨みによる犯行」で終わりそうである。私も謀殺説よりも「実はしょぼい動機」「チンピラが追い詰められて最後の花火を打ち上げた」事件ではないかと思っている(しかし、こんな理由で殺されてしまったとしたら、市長やご家族の無念は計り知れない)。とはいえ暴力団の起こした射殺事件である。裏にどす黒い闇が広がっていても不思議ではない。もし仕組まれた暗殺だとしても、容疑者が自白する筈もなく、下手にいらないことを言うと容疑者自身まで暗殺されてしまいかねないので、結局真相は明らかにされないだろうと思う。
この事件で、ふっと思い出したのが、ジョン・レノン殺害事件だ。これもレノン暗殺疑惑が世間をにぎわせた。これは犯人の動機が不明瞭であったということも関係している。犯人のマーク・チャップマンは実はそこまでレノンに傾倒していなかった、すなわち「思い余って殺してしまう」ほど狂信的なファンではなかったからだ。彼は精神を病んでいた。
「CIAが彼を洗脳し操ってレノンを殺した」「何故ならレノンが世界平和のカリスマになりつつあり、政府に邪魔な存在になっていたからだ」。そう信じる人は今も多く存在する。
レノン謀殺論は昔私も読んだことがあり、なるほどと思った。そして、今、レノンは平和のカリスマとなった。彼の「イマジン」は、平和の脅かされる事件のある度に歌われ、演奏され、メディアで流され続けている。しかし、彼が生きていたとして、果たして今のように平和のカリスマたりえたか?911後の世界も今とは違っていたか?というと私は若干疑問を覚える。レノンは死んだからこそ今の地位たりえたのではないか?
しかし、レノンは殺されなかったら、もっと人々の心に響く曲を作り続けていったに違いない。真相はどうあれ、チャップマンはやはり偉大なミュージシャンを抹殺してしまったことに変わりは無いのだ。
今回の事件の犯行動機も普通殺人まで至るとは思えないようなものだ。そして犯人は、犯行直後に市長の支持者たちに取り押さえられた。映像を見ると自殺防止に口に布を噛まされていた。犯人は犯行直後自殺するつもりだったというが、例えそうでもこれでは死ぬ暇はなかっただろう。少なくとも彼が死ななかったことで、本人相手に取調べが出来るから動機もある程度明らかにはされるだろう。(本当に死ぬ気だったとして)あそこで自殺していたら、ますます事件は闇の中、確実に謀殺疑惑は勢いを増したはずだ。的確に犯人を組み伏せた方(下にインタビューの動画あり)や取り押さえた方々、そして犯人の足にしがみついて「(犯人は)この人です!」と叫んでいた市長夫人の勇気には敬意を表する。予想外の出来事のため、殺害は防げなかったが見事に犯人を取り押さえることが出来た。私がその場にいたら果たして同じことが出来ただろうか・・・。それにしても、とっさの行動だったとはいえ、銃を持つ犯人を見事組み伏せた勇気はすばらしい。
事件は共犯者の存在も浮上している。しかし、市長謀殺の事実が明るみに出ることはないだろう。理由は最初に書いたようなことだ。実際彼が死んで喜んでいる(少なくともほっとしている)人たちもいるだろう。被爆地ナガサキの市長であった彼の反核の訴えは、おそらくどんな革新系の人々より激しかった(彼は保守系だった)。伊藤市長は本気で核兵器を憎んでいたのだろうと思う。
伊藤市長殺害が謀殺であろうが犯人の身勝手きわまりない私怨であろうが、真相はどうあれ「伊藤一長」という人の未来を奪い、彼の信念を奪い、彼がこれからもやり遂げようとしていたことを絶ってしまったことに変わりは無い。それを思うと伊藤市長とご家族の無念さは察するに余りある。
理由はどうあれ恐怖で人心を脅かしたこの行為はいわゆる「テロ」であり、許されない暴挙である。
警察はしっかりと事件を捜査し、出来る限り核心に迫った事実を公表して欲しい。そして、2度とこのようなことが起こらないように、万全な対策をとって欲しいと思う。そもそも銃を持つことが禁じられている筈のこの国でおきた、拳銃による射殺事件である。問題は、犯人のような暴力団が銃を所持することを事実上許していたことだ。「蛇の道は蛇」というが、その道であれば比較的簡単に銃器が手に入るのだ。この状況をもっと厳しく取り締まって欲しいと思う。実は、私が依然勤めていた会社のすぐ傍で銃撃事件があったことがある。幸い死傷者は出なかったが隣のラーメン屋の壁に流れ弾が当たっていた。
いやな世の中にどんどん突き進んでいる、そんなことを案じさせる事件でもあった。
伊藤一長さんのご冥福を心からお祈りいたします。そして彼の願いである核兵器の廃絶に向かって、世界が一刻も早く動き始めるように、また、憲法九条が改悪されることのないように願って止みません。
■アーカイブ■
犯人を取り押さえた伊藤市長支援者の男性が語る、襲撃時の生々しいようす。
http://newsflash.nifty.com/stream/movie/200704210400000movie300k.asx
長崎市・伊藤一長市長が暴力団幹部に銃撃され殺害された事件で、当日、伊藤市長に同行していた支援者の男性が犯行当時の生々しい様子を語った。
伊藤市長に同行していた支援者の男性は「撃たれた穴から煙が2本上がった。周りにもやがかかった。容疑者の手をつかんで、左手を首に回して横断歩道までもみ合った。容疑者が舌をかみそうだった」と話した。 また、犯行直前に選挙事務所近くの雑居ビルの前に立つ城尾哲弥容疑者(59)については「支援者かもしれないと思って会釈した。何の反応もなかったので、普通の人だと思った。上着が異様に大きかった。おかしい人だなと思った」と述べた。 さらに、この男性は現場近くで複数の不審な車も目撃している。男性は「軽乗用車がライトをつけたまま止まっていた。ライトがつけっぱなしだったから、ちょっと不思議だなと感じた」と話した。 一方、関係者によると17日午後6時ごろには現場近くで城尾容疑者の姿が目撃されていたことがわかり、警察は城尾容疑者が約2時間前には伊藤市長を待ち伏せしていたものとみて調べている。
[日テレNEWS24:2007年04月21日13時22分]
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