嬉しかった朝の出来事

　今日は今年最後の出社の日だった。

　昨日まで１２月にしては異例の暖かさだったのに、今日は一転して冬空となった。「明日から大掃除なのに、何でいきなり真冬なんだよ。」とか思いながら、往路を急いだ。今日から休みの会社もあり、電車は少しだけ空(す)いていたが、バスのほうは何故か少し人が多かった。

　
　会社までは、バスを降りて少し歩く。その時交差点を渡らねばならないのだが、たいがいは車が途切れたのを見計らって道路をひとつ渡ってしまう。信号待ち２回を１回に短縮するためだが、単にせっかちなだけかもしれない。
　今日も車が途切れたので、小走りで道路を渡った。渡り終えたあたりで、「プアッ！」とクラクションが鳴った。あれ、何のクラクションだろうと思いながら、自分とは思いもよらず、無視して早足で歩く。すると、誰かが大声で何か言っているのに気がついた。声がする道路のほうを見ると、赤いトラックの運転手のおじさんが何かこっちに向かって言っている。おじさんの顔を見ながら、「え？」という顔をすると、もう一度大声で繰り返してくれた。

「さっき渡った時、定期入れか何かを落とされましたよ。」

げっと思ってバッグのしかるべき場所を見ると、確かに何も入っていない。
「ありがとうございます！」私は、運転手さんに一礼すると、きびすを返して落としただろう現場に走った。見ると乗用車が止まっている。（まさか、あの車の下になってるんじゃ・・・。）一瞬不安になったが、その先を見ると道路の隅に赤い定期入れが落ちていた。
「良かった、あった！」
私は、ほっとして定期入れを拾ってバッグの所定の場所にきちんと収めた。定期入れとはいうものの、ここ何年も定期券は買わないで、パルチケット（６枚が五枚分の金額の回数券）とバスカードで倹約をしているので定期券は入っていない。バスカードは残り８０円分しかないが、パルチケットは買ったばかりでまだ５枚、すなわち買った金額分残っているし、テレフォンカードもまだ３００円分は残っている。また、何枚か人からもらった名刺も入っている。落として紛失した場合、またちょい鬱が入るのは目に見えている。

　ほんとうに、親切な人に目撃してもらってよかったと思う。なんとなく、嫌なことの多い昨今、まったく知らない人から受けた親切に、寒い冬空の下、ちょっと暖かい気持ちになったのであった。

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